現在位置:asahi.com>食>コラム>スイーツの心得> 記事 「塩スイーツ」というジャンル!?2007年05月11日 地下鉄で中づり広告を見ていたら、「塩スイーツ」の文字が目に飛び込んできた。『anan』が「ハッピー!スイーツパラダイス」という特集を組んでいるのだが、この春のお菓子トレンドとして、「塩スイーツ」の項目が立っていたのである。その数日前には、地方のテレビ局から「塩スイーツ」について電話取材を受けたばかりだった。どうやら「塩スイーツ」が健闘中らしい。
「塩スイーツ」という言葉が聞かれ始めたばかりの頃(2年以上前だ)、必ず取材されていたのが、東京・吉祥寺「アテスウェイ」というパティスリーである。この店のシェフ、川村英樹さんは、フランス・ブルターニュ地方で修業した。ブルターニュは塩の産地として名高く、お菓子に塩や有塩バターを用いる(普通、フランス菓子で使うのは無塩バターだ)。川村さんは、パティシエとしての自分を形成してくれたブルターニュの味を日本でも再現したいとの思いから、塩や有塩バターを使うお菓子をレパートリーに加えてきた。つまり、彼にとっては、「アイデンティティーとしての塩」だ。「塩スイーツ」というものを作ろうとしているわけではない。当時、彼は、自分の思いとは関係なく「塩スイーツ」としてくくられてしまうことへの困惑を訴えていた。 誰が呼び始めたのかは知らないけれど、「塩スイーツ」という呼び方自体がなんとも際どいのである。いかにも「流行(はや)り物」的な、すぐに消えてゆきそうな感じで。「世の中の興味も長くは続くまい」とすっかり高をくくっていたところ、そうでもなかったんですね。 つい先日、「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション」へ行ったら、塩バター味のブリオッシュがあった。いや、これがとんでもなくおいしい。有塩バターをたっぷり塗って砂糖をふったブリオッシュ生地のトーストをイメージしていただけばよいだろうか。甘くてしょっぱくて、日本人にはどこか懐かしくもある。「う〜ん、これは確かに受けるかもしれない」。「塩スイーツ」なんて名称はともかく、味覚の根っこを刺激するのは間違いない。 パリの三ツ星シェフ、アラン・パッサールが来日して、ザ・プリンス パークタワー東京の「ブリーズヴェール」で開かれたフェアに登場した小菓子「醤油(しょうゆ)のパート・ド・フリュイ(ゼリー)」は、みたらしだんごの「みたらし」の味だった。「こういう甘くてしょっぱい味をフランス人は好むのか?」との質問に、パッサールは「ウイ」と言う。一同、「へぇ〜」。そうとは知らなかったよ。しかし、後で思い出したのだった、彼がブルターニュ地方の出身であることを。 「塩スイーツ」の発端は、アンリ・ルルーの塩入りバターキャラメルにあると私は見ている。「サロン・ド・ショコラ」が開かれる度に、ルルーさんのコーナーには大行列ができて、彼の塩入りバターキャラメルは飛ぶように売れた。以降、塩キャラメルを作るパティシエやメーカーが増えた。「塩キャラメル」の文字をあちこちで見かけるようになった。 ルルーさんはもちろんブルターニュの人である。そんなルルーさんの名前を冠したショップが伊勢丹新宿店に常設されて、ケーキも並び始めた。塩の利いたチョコレートケーキまである。こうして「塩スイーツ」という概念は次第に確立されていくのかもしれない。
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