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紙面から from Asahi Shimbun

 【「原爆、むごさの証し」 中沢正夫医師 朝日新聞社被爆60年アンケート】(2005年7月17日 朝刊 34面 【大阪】)

 被爆者の心の相談を担当してきた元代々木病院副院長で精神科医の中沢正夫さん(68)の話  音や色、においに触れると体験を鮮明に思い出したり、悪夢にうなされたりするのは、PTSDの基本的な症状だ。60年が経過しながら恐怖や不安がよみがえるのは重篤な例で、被爆体験は人類史上最悪、最大の精神的外傷(トラウマ)と言えるだろう。  PTSDは多くの場合、時間の経過とともに回復するが、長く引きずるのは体験の激烈さに加え、身近な人が白血病やがんで次々と亡くなったり、原爆症を発症したり、日常的に「あの日」に呼び戻されるからだ。  被爆者の多くは悲惨な体験を連想させるような刺激を避けて行動する。被爆体験を配偶者や子どもに語らないのは、我が身を守る一種の心理的防衛と考えられる。それでも、ふとしたきっかけで、「ふた」がはずれ記憶がよみがえる。こうした被爆者の「こころの傷」の特殊性は、原爆と放射能被害のすさまじさの証左でもある。  治療には、心理的専門家が時間をかけて話を聞くことが必要だが、同じ体験をした被爆者同士で語り合うことも効果がある。