イギリスの地方公務員であるわたしの夫の有給休暇は年間33日。消化率は100%。1週間の就労時間数は37時間。民間の会社であってもそう大きな違いはない。その一方で、残業がなく、基本給に上乗せになる収入がない。しかもロンドンの金融街の銀行マンか大企業の重役クラス以外、一般の労働者にはボーナスという制度はないので、この時期になれば家計にまとまったお金が転がり込んでくるという当てもない。
イギリスでDIYが盛んな理由はそのような背景に裏打ちされているようにも思われる。ところが、余剰時間を使った家計費の節約のほかに、DIYには一家だんらんの時間を作り出すという役割もあるのだ。
イギリスに限ったことではないだろうが、ティーンエージャーにもなると子供たちは部屋にこもるか友達とつるんで外出する。わが家も息子の顔を見るのは食事をともにする時間くらいになってしまった。2、3年前までは、夕食後はいっしょにリビングのカウチでくつろぎ、同じテレビ番組や映画を見たものだが、各個人がパソコンを持つようになるとそれぞれが自分のパソコンに向かうようになった。テレビ番組や映画もそれぞれの好みのものをパソコンで見る。いよいよ家族共通の話題にこと欠くことになる。
だからというわけではないが、息子にもDIYの手伝いをさせるようになった。小さな子供時代には邪魔になってよけいな仕事を作ってくれるぐらいだったが、技術はないにしろ力仕事の助けにはなる。裏庭の物置の組み立て、ウッドデッキの敷設には買い出しから実際の作業までを手伝い、大いに貢献した。息子の部屋の改装は、息子自身が出したアイデアをもとに一家でデザインを決定し、共同作業で行った。
共同作業場となった息子の部屋へは、改装以後も親が気軽に訪れるようになった。部屋にこもっていた息子も自分が手を貸してできあがった庭のウッドデッキに降りてきては日光浴などするようになった。そのウッドデッキのベンチに腰かけて、夫はわたしや息子に問う。「さて、次は何にとりかかろうか?」「玄関と階段の壁のペンキ塗りかな」「どんな色がいい?」「黄色かな」「緑もいいんじゃない?」今年も、夫の年休はまだまだ残っている。