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今週のコラム
アジアと欧米の識者による様々な立場からの意見です
日本の尊い非軍事技術
フェルディナンド・マキト
テンプル大学ジャパン客員講師(フィリピン)

フィリピンのアキノ元上院議員の暗殺事件から19年たつ。事件解決の決定的な証拠の一つが、マニラに到着した飛行機から兵隊に連れ去られたアキノ氏の映像だった。長さわずか10秒で、アキノ氏の姿はほとんど映っていない。その音声の分析結果を、身の安全が保証されなかったにもかかわらず自らフィリピンの裁判所へ提供したのが、今話題の玩具、犬語翻訳機の開発の基となる研究を率いた音声学者の鈴木松美博士だったと知った。

暗殺事件から3年後、政府軍と反乱軍の間で銃撃戦が起きないように、夜を徹して道路封鎖をした数十万人のフィリピン人の中に私もいた。あのピープル革命につながったと言えるアキノ事件の音声分析が、日本人の手によるものだとは知らなかった。頭が下がる思いだ。

テロの陰に入ってしまった今の世界は、暴力で対立を解決しようとしているように見える。だからといって、日本は核兵器や軍事的介入を放棄した路線をあきらめてはいけないだろう。やはり、非暴力が一番だ。相手が軍事力を増大するからこちらも増大するという古い20世紀的な悪循環を断ち切らなければいけない。軍事力に魅せられた大国がある限り、世界レベルでは当面無理な話かもしれない。せめて地域レベルで、日本とアジアの諸国は、新しい21世紀の良い循環を作るべきだ。日本はあの戦争の反省の上に、モラル的に有利な立場に立っている。

ビデオカメラのほうがパトリオットミサイルより、高度な技術を使っているという。日本はその非軍事的な高度技術によって、テロの温床であるアジア地域の貧富差を無くし、平和に貢献することができる。アキノ暗殺事件の解決に役に立ったのは爆弾ではなく、ビデオだった。非暴力主義の道は10秒間のビデオを分析するのと同じぐらい困難で命がけにもなりうる。しかし、フィリピンの経験は非暴力主義の豊かな可能性を示している。

日本が単独でこの道を歩むわけではない。その理念は広くアジア諸国に受け入れられるはずである。

2002年12月6日
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