中国南部、とりわけ広東省の人は食欲旺盛、何でも食べる。「2本足は人以外、4本足はテーブル以外すべて」と揶揄(やゆ)されるほどだ。5千年の歴史を誇る「食の大国」、南部だけでなく全国的に見ても食用動物の種類は日本を大幅に超える。だが、その伝統食文化もいまや、抗しがたい挑戦を受けて揺らいでいる。今月5日、広東省で再発生した新型肺炎SARSの感染源として食用ハクビシンが再び名指しされ、その一斉処分と食用野生動物市場の閉鎖が命じられたのだ。
SARS類似ウイルスの発見で昨年5月にハクビシンなど野生動物の売買取引が規制され、一度は野生動物料理「野味」が広東料理から姿を消した。だが、SARS終息の10月以降はハクビシン無罪説の研究や飼育農家への配慮もあって、解禁されていた。
今回再度の元凶説で広東省政府は、ハクビシン全処分という徹底した措置に打って出た。牛海綿状脳症(BSE)で牛を大量処分した他国の例を参考にした。
全処分に対して動物愛護団体から強い抗議が出ているが、「野味」を惜しむ声は影をひそめている。各地の新聞は野生動物の食習慣をなくそうと一斉に呼びかけた。インターネットでも「野味」批判が高まった。当初の感染源批判から、最近は「野生動物など自然界と調和、共存すべきだ」「食文化も進化しなくては」といった文明論的観点が色濃くなっている。
長年の食習慣が変わるには時間がかかるが、今回、SARSがきっかけとなり、中国社会の発展と相まって、伝統的な食慣習が大きく見直されていく方向はもはや変わらないだろう。
「世界の中華」と自負する中国人だが、日本や韓国、タイ、西洋など外国料理への関心も高まっている。北京と上海にある日本料理店は千軒をくだらない、と業界筋。そんなグローバル化の影響からか、中華料理店でも大皿ではなく、少人数でも多様な料理を味わえるように中皿、小皿で出すところが増えた。取りばしの使用も一般化し、割り勘も若者の間で増えている。食べきれないほど料理を作ったり注文したり、お酒を強く勧めたりする面子(メン・ツ)主義の伝統的な会食様式は、大都市ではもう影が薄い。
「最近の中国では、アルコールの強いお酒の『乾杯』が大幅に減って、楽になった」と日本の友人は歓迎している。
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筆者の略歴:湖南省生まれ。上海外語大から新華社記者。95年上智大修士課程修了。専門は農業を中心とした中国経済。目と足での調査に主眼をおく。