米国でブッシュ政権への批判が強まりつつある。アラスカ州バロー市では海面上昇による住民移住が現実問題となっており、州選出の共和党議員が大統領の温暖化防止政策に異議を唱えている。世論調査でも、米国民の62%が大統領が石油業界からの影響を受け過ぎていると考えている(CBS、5月22日)。
しかし、大統領が「京都議定書離脱」という前言を直ちに翻す可能性も小さい。報
道されている米政府の代替案も、合意決裂をより促す内容である。「京都議定書は、
途上国の削減義務なしという欠陥を持つ」という主張からして、自らの義務を履行し
たくないための煙幕や策略である部分が大きい。
従って、議定書発効の条件である「55%以上の排出量を占める国々の批准」とい
う数字あわせのためには、欧州連合(EU)、ロシア、日本の批准が最低限必要であ
り、これらの国々が一致協力して早期発効の目途を立てなければ、具体的な制度設計
や国内対策の開始が遅れ、各国の批准、そして議定書で定められた目標の達成は、よ
り困難になる。現在、EUおよび議定書発効で経済的利益を得るロシアは、米抜きで
も批准する可能性が高い。従って、京都議定書の命運は日本のこれからの判断や行動
にかかっている。
その日本では、「米抜きでは、温暖化対策としての効果がない。途上国も京都で決
まった枠組みに参加しない」と考える人が少なくない。が、これは間違っている。米
国の二酸化炭素排出量は世界全体の23%に過ぎず、残り77%の排出量を占める
国々が温暖化対策で一致団結することの意義は計り知れない。また、中国も米国の動
向に関係なく議定書批准を示唆している(朝日新聞、6月22日)。
「米抜きでは途上国が削減義務を拒否する」という議論も単なる憶測に過ぎず、か
つあまりにも単純である。途上国は一様ではなく、削減義務の受け入れ云々(うんぬ
ん)は、他国の状況や義務の内容による。また、温暖化でもっとも深刻な被害を受け
る、あるいはすでに受けているのは途上国であり、彼らの方が温暖化対策の必要性を
身をもって感じている。さらに、これまでの交渉経緯から、議定書発効が、途上国削
減義務の具体的内容に関する議論を開始するための必要条件であることは明らかであ
る。
米抜きの場合、日本企業の競争力低下に対する懸念もある。だが、この問題を貿易
問題のひとつと考えれば、国際ルールに則(のっと)った様々な対抗措置が存在す
る。
客観的に見て、日本政府の主張の多くが、温暖化対策という観点からは必ずしも前
向きではない。国際社会には、日本は米と同じくらい、批准に消極的と考える向きも
あり、今の議長調停案も日本に譲歩している。従って、今後も米抜き発効に関して曖
昧(あいまい)な態度を続ければ、「是非に関係なく常に米国追従」「米説得は方
便。日本の外交理念である地球環境や途上国の重視、02年発効は単なる建前」と
いったマイナスイメージがより一層強くなる。
すなわち、日本政府によって早期発効の方向付けがなされない限り、日本は京都議
定書と、国際社会からの信頼の両方を失うことになる。その代償は大きい。
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(あすか・じゅせん 東北大学東北アジア研究センター助教授)