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AAN発
環境と農村・都市の持続的発展 農村編(上)
日本

食糧輸入で大量流入

内山幸男
編集委員(AAN研究員)

日本の窒素循環、家畜排泄物から出る窒素量
窒素の役割と危険性 窒素はリン酸、カリとならぶ肥料の3大要素で、農業になくてはならない。たんぱく質を構成する元素のひとつで、食べ物の中に大量に含まれる。しかし、多すぎても困る。煮ても焼いても窒素は消えず、外に出れば酸性雨の原因になり、地下に浸透すれば硝酸性や亜硝酸性窒素となって地下水を汚染する。

日本は世界一の食料・飼料の純輸入国だ。それは世界一の窒素輸入国ということでもある。大量の窒素の流入が、今、日本の窒素循環の輪を肥大化させ、狂わせ、環境汚染を引き起こしている。

高濃度に窒素汚染された水を乳児が飲むと、メトヘモグロビンという酸素を運べないヘモグロビンができて貧血症状を起こす。欧米ではブルーベビー症として知られ、死者も出ている。

日本では人の被害報告はないが、筑波大学の西尾道徳教授(農林工学)は「農業共済統計によれば、少なくとも毎年数十頭以上の牛がメトヘモグロビン血症で死んでいる」という。

環境省の01年の地下水調査では、健康に関する環境基準(1リットル当たり10ミリグラム以下)を超過した率は5.8%。ヒ素やシアンなど26項目の中でも最も悪い。

環境基準が厳しすぎるわけではない。それどころか農水省が決めた稲の農業用水基準は1ミリグラムである。「トウモロコシなら肥料なしで水耕栽培できる濃度だ」と農業環境技術研究所の杉原進監事はいう。

窒素汚染は、お茶や野菜畑での化学肥料の使いすぎでも起きているが、より深刻なのは日本全体の窒素過剰だ。

日本の窒素循環は、農環技研が5年おきにまとめている。現時点では袴田共之・元資源・生態管理科長らがまとめた92年のデータが最も新しい(図。同氏らのデータを簡略化して作成)。これによると外国から食料・飼料の形で入ってくる窒素はざっと92万トン。化学肥料の57万トンよりはるかに多い。

食料・飼料の窒素の大部分はめぐりめぐって、人や家畜から排泄(はいせつ)される。その量は生ごみなどを含めて人が74万トン、家畜が75万トン。人の分の多くは高い経費を払って焼却している。環境への影響が深刻なのは家畜だ。

家畜排泄物は94%が再利用されていることになっている。しかし、仮にこの窒素を農地に均等にまいたとすると、1ヘクタール当たり約150キロにもなる。畜産県の宮崎県に限れば600キロを超える(図。中央農業総合研究センターの原田靖生・土壌肥料部長と、岩手大学の築城幹典・助教授のデータをもとに作成)。

ちなみに、平均的な水田の窒素肥料の量は年間100キロ前後、味を良くするために60〜70キロしかまかない農家もある。

いずれも、あくまで計算上の話で、排泄物を堆肥(たいひ)として使おうとすると、その中の窒素の3割〜5割は空中に逃げて減る。一方、日本の農地の過半を占める水田では畜産堆肥はほとんど使われていないため、現実には畜産地帯に窒素があふれかえっている。

日本を窒素まみれにするわけにはいかない。

農水省は、99年に成立した家畜排泄物法と肥料取締法の一部改正によって、家畜排泄物の適正管理と堆肥の品質管理強化に乗り出した。作物を作る耕種農家に家畜堆肥を使ってもらう―「耕畜連携」を窒素汚染を防ぐ柱としている。

家畜堆肥に対しては厳しい声も少なくない。8月、川崎市で開かれた日本土壌肥料学会では、「畑はゴミ捨て場ではない」という言葉を何回か聞いた。シンポジウムで、「抗生物質などが心配だから動物性のものは使わない」と話した地元の有機野菜農家もいた。

重たいうえにかさばる堆肥は、輸送コストが移動を阻む。運んで使ってくれるのはせいぜい30キロ〜50キロ程度の距離にある農家だけというのが従来の実態だった。

いろいろ問題はあるが、中央農研の原田部長は「作物農家の求める良質な堆肥をつくり、化学肥料の代わりにできるだけ多く使ってもらえるようにしたい」という。

日本の畜産の多くが輸入飼料に頼っている。自分の畑で作った飼料で育てれば、窒素がそこで循環するためこんな問題は起きないが、それでは市場で生き残れない。

農家も消費者も、安くておいしい食べ物を求めてここまできた。しかし、「窒素循環は自然法則だ」と袴田氏はいう。自然法則に外れた農業や消費が長く続くはずがない。

江戸の農業

狭い地域で循環完結

江戸開府400年の今、当時の循環型社会が見直されている。地域の窒素を大事に集め、狭い地域で循環を完結させる当時の農業は、VACR農業とそっくりだと九州沖縄農業研究センターの松井重雄・作物機能開発部長はいう。

江戸の農業の実態を知るため、農環技研のデイビッド・スプレイグ研究リーダーが、茨城県牛久市周辺の明治初期の地形図を調べたところ、草地や林地が水田や畑の面積の2倍を占めていた。

草を刈って馬に食わせ、糞尿は堆肥にして畑にまく。林では小枝だけではなく落ち葉も集めて使う。林の土地はやせ細り、松林が増えていく。「すべての生物資源をぎりぎりまで使う厳しい生活だった」という。

化学肥料が本格的に普及する50年代までは、各地に似たような複合農業が残っていた。

滋賀県朽木村では、馬ではなく、牛を飼っていた。山間地の同村では、村を囲む山すそが草地であり、林地でもあった。草、林地の面積はやはり水田の2、3倍は必要だった。

当時を知る同村打明の川島茂さん(85)は「地球のためには良かったろう。でも、もう一度やるなんて考えられないことやな」という。

つらかったのは、炎天下でのホトラ(牛の敷きワラ)刈り。1年分、牛小屋の2倍もの草を梅雨明けからお盆までに山から刈って里に下ろさなければならない。

敷きワラは牛に踏ませ、堆肥になる。発酵しかかって生暖かいワラを小屋から出すのが肥出し。くそまみれになるが、それでも、「ホトラ刈りにくらべたら楽だった」。 ホトラ刈りも肥出しも、山から水田へ窒素を移す作業だ。この作業は、村に化学肥料が登場するとあっという間に消えた。ホトラ山はもとの雑木林に戻った。

ベトナム・メコンデルタは遠く、伝統の小規模複合農業も消えて久しい。それはやむを得ないとしても、新たな窒素循環を作り出す必要がある。

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