世界の関心の的となってきた米国の大統領選挙はブッシュ氏の再選で幕を閉じた。今回ほど関心を持って帰趨(きすう)を見守った大統領選もなかった。それは、外政問題、特に今後の国際秩序と深くかかわる問題が争点となったばかりでなく、韓日両国にとって深いかかわりを持つ北朝鮮の核問題とイラク戦争が論点となったことにもよると思う。
北朝鮮は選挙戦中、「ヒトラーを数十倍しのぐ暴君中の暴君」とブッシュ大統領を攻撃してきたが、再選後は、日本の朝鮮総連機関紙の朝鮮新報が「憎い者ほど長続きすると言うが、ブッシュは父も果たせなかった再選を実現してしまった」と皮肉な短評を出したほかはいっさい鳴りをひそめている。
ブッシュ大統領が北朝鮮核問題で再び強硬策に転ずるのではないかという心配の声がある。穏健派を代表してきたパウエル国務長官の辞任も発表されたが、後任に強硬、穏健両派の間でバランスをとってきたと言われるライス大統領補佐官が指名される見通しなのは幸いだ。
この問題に関しては6者協議で解決を図るというのがブッシュ大統領の方針でもあった。再選後の9日、国務省のケリー次官補(東アジア・太平洋担当)はあるセミナーで、「米政府は北朝鮮とは直接交渉せず6者協議の枠を引き続き活用する」との方針を確認し、北朝鮮に向けて「年内にも6者協議に復帰する」よう促している。
北朝鮮との直接対話を掲げて戦ったケリー上院議員が敗れたいま、北朝鮮としては6者協議に出てくるしか道がないことは明らかである。
最近、韓国の国会では野党議員が国防研究院の報告書を引用して「戦争が起これば、北朝鮮の長距離砲によってソウルの3分の1が破壊される」と発言、機密漏洩(ろうえい)だとする与党側と論争になった。かつて米国のシンクタンク、ランド研究所の研究員が北朝鮮の生物・化学兵器能力を論ずる中で、北朝鮮がサリン弾を使用した場合、ソウルでは数十万人の死者が出ると述べたこともある。
さらに、94年の第1次北朝鮮核危機の際には、当時の駐韓米国大使が、戦争になれば5万人の米兵の遺体袋が戦場から帰るだろうと報告し、米政府が強硬策から交渉による妥結に転じたという話も有名だ。そんなことになれば北朝鮮も灰となり、北の政権が地上から消えることも言うに及ばない。
これらの話は、この問題はあくまで外交手段で解決していかざるを得ないことを示している。幸い、第3回6者協議で米日韓は北朝鮮に対して段階的な解決方案を提示した。北朝鮮は様々な異議を申し立てているが、それはこれからの協議で十分に討議し得るものだ。そのためには何を置いてもまず、交渉のテーブルにつくことである。