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The Asahi Shimbun Asia Network

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AAN発
研究会報告「日中の確執を考える」
韓国から見た日本の「歴史認識」
孔 魯明
 韓国元外相

Gong Ro-Myung  1932年、咸鏡北道(現北朝鮮)生まれ。ソウル大卒。外務省に入り、アジア局長、初代駐ソ・駐ロ大使、93−94年の駐日大使を経て、94−96年には金泳三政権の外相を務める。現職は翰林大学日本学研究所長、朝日新聞アジアネットワーク会長。

4月の中国における反日デモ、また韓国における反日デモは、ある面では予想されたものだったと言えるかもしれませんが、日本には非常なショックであったことは間違いないと思います。ただ、韓国と日本の間で絶えず問題になりうるのが歴史認識ですので、私は、いつかまた問題が出てくると思っていました。特に歴史教科書は日本の検定が4年ごとですから、周期的にそういう時期が来ます。日本はだんだん保守化、右寄りに動いているので、いずれこれは問題になるだろうとかねて心配していたのです。

「共同研究」をてこに相互理解へ

実は私が(外相として)政府にいたとき、1995年の11月に大阪でAPECのサミットが開かれた際、当時の(金泳三)大統領に、「ぜひとも韓日両国で歴史の共同研究をやって、いくつかの歴史的問題に対する双方の考え方を詰めていくことが両国の友好協力関係増進に寄与する」ということを申し上げました。幸い日本の村山(富市)総理も非常に開けた方で、合意されました。しかし、日本の外務省がなかなか動いてくれず、私が政府にいる間は実際に動き出さなかった。事務当局に「早く話を詰めて、発足させたらいいじゃないか」と言ったのですが、「日本の外務省が、共同研究する先生方がなかなか集まらないと言っている」という。で、「この前は実現したじゃないか、初めてではないのだからやれるだろう」と強く言いますと、「いや、実は(日本では)この間の共同研究の後、参加した先生方にいろいろいやがらせの電話なんかがあって、歴史学者たちが非常にいやがっていて、日本外務省は手を焼いています」ということでした。

しかし、97年には日韓共同の歴史研究が動き出して、2年後にはその成果も発表されました。その後にもう1回、金大中大統領の時に同様の試みがなされていますので、昨日(6月20日、盧武鉉・小泉純一郎両首脳の会談で)合意されたのはそれに次ぐものになると思います。1、2カ月前の新聞に、「フランスとドイツの間で高等学校の共同の歴史教科書ができた」という記事が載っていました。(日本と韓国の間でも)共同教科書ができればよいと思いますが、日本の文部科学省は、「共同研究の結果を教科書に反映することは難しい」と言います。「反映するかしないかは出版社が決めることであり、強制はできない」と言うのです。非常にハードルが高いですね。しかし、お互いに同じ意見に至らなくても、韓国はこういう見解を持っている、日本はこういう解釈をすると、二つの考え方があると教えるだけでも、次の世代のためになると思います。

中国における反日デモの後、『中央公論』に田中明彦先生(東大教授)と岡本行夫さん(外交評論家)の対談が掲載されました。私も同感だったのは、岡本さんが、「日中問題は中国の方ではだんだん構造的になっていく。反日的な思考が積み重なっていっては大変だから、共同研究を通じて歴史の共通の理解とか認識を持っていくようにしなければならない」とおっしゃっていたことです。もうひとつ、韓国人として全くその通りだと感じたことは、岡本さんが、「韓国のことは心配していない、韓国と日本は年間三百万人から四百万人が往来している、これだけの交流があれば問題はない、むしろ自分は楽観している。しかし中国には真剣に取り組まなければだめだ」というようなことをおっしゃっていたことです。

米中関係が東アジア共生の要

この5月に北京で、朝日新聞アジアネットワーク、韓国・東亜日報21世紀平和研究所、中国現代国際関係研究院の3者による、東アジア共同体についての共同シンポジウムがございました。反日デモの後でしたが、参加者全員の意見が、東アジア、東北アジアの共生のために共同体をつくる方向にまとまっていくのを見て、特にそういう声が中国側から強く出てきたことを、私は心強く感じました。

キッシンジャーさん(元米国務長官)が中国と米国の関係について次のように述べています。「ブッシュ大統領もライスさん(米国務長官)もパウエルさん(前米国務長官)も、『米中関係は1971年以来最高の状態にある』と言う一方で、中国の人民元問題とか軍事予算の膨張とかに文句をつけている。結局、中国のライジング・パワーとしての浮上が、アメリカの安全保障に今後どのように関わっていくかが、アメリカの関心事であるのだ」と。またキッシンジャーさんは、「(核がある)21世紀の状況では武力による問題解決はあり得ない」と言いながら、「中国が特にアジアにおいてアメリカを排除するような行動に出るか出ないかが、中国との関係を判断するひとつの尺度になる。幸い中国が自分の国益のためにアメリカとの協調を外交路線の中心に据えていることは非常に心強い」とも言っています。

実際、中国の対米政策は基本的にはアメリカとの協力を中心に据え、東アジア共同体の問題においても、アメリカなど域外の国にも開かれた共同体に持っていこうという考えを公に言っているので、両国の利害関係が衝突に発展することはないだろうと、私は楽観しています。とにかく、今後のアメリカと中国の関係が、日本、韓国など東アジアに位置する国には大きく影響してくる。

中国の今後の出方、また中国とどう付き合うかは、日本はもちろん韓国にも重大な問題です。最近の中国と日本の関係で、私は、いくつかの問題で日本の方でも少し考え直してはどうかと思うところがあります。内政干渉だと受け取らず聞いていただければと思います。韓国でも非常に関心の深い問題です。

実は昨日の日韓会談で盧武鉉大統領が相当な時間をさいて小泉総理とお話をしたと聞いておりますし、共同記者会見でも大統領がおっしゃっていたことです。「日本と韓国と中国の3カ国の、共通の歴史認識に対するある理解がない限りは東アジアの平和と安定、繁栄はなかなか期しがたい」ということです。それは、過去の歴史をどう見るか、そこから派生する過去を清算する話、それから、過去の認識と関係がある靖国神社参拝問題などです。

東アジアの未来への暗雲

韓国は総理を含めた日本の政治家が靖国参拝されることには反対ではない、反対なのは靖国に14人のA級戦犯が祀られているからだということを、私は強調して申し上げてきました。中国でも同じような考え方をしています。A級戦犯が祀られている神社に日本の総理が参拝することは結局、第二次大戦、戦争を正当化する行為に解釈できるから問題だということです。このことは小泉総理ご本人もご存知だと思いますが、参拝を中止するとはおっしゃらない。また、次期総理と目される方々の一部には、「靖国参拝をやめたからといって日中関係がよくなるわけではない、次はガス田の問題とか色々出てくるだろう、だから靖国はそのままでいい」とおっしゃる方もいる。しかし、このままの状態がいつまでも続いていいのか、やはりきっちりけじめをつけた方がいいという気がしてなりません。今年12月の東アジアサミットまでこういうとげとげしい日中関係が続いたら、東アジアに本当に未来がありうるでしょうか。

何らかのジェスチャーが必要だと思います。今の小泉さんのように意地を張る形ではそのメッセージはなかなか韓国、中国に伝わりにくい。小泉さんは「靖国神社にいくのは平和を願っているからで、2度とこういう戦争があってはならないということです」と言いますが、紋付き袴の小泉さんの姿を見ると、かつての日本帝国主義のイメージが浮かぶことは否定しがたいのです。

政策の変更は政権交代によって初めて成り得るのが政界の常識ですので、この状態は小泉内閣が終わるまで続かざるを得ないとも考えます。またポスト小泉でまず頭に浮かぶのは、石原(慎太郎)さん、安倍晋三さん、町村(信孝)さん、中川(昭一)さん……みなセンターライトで、センターレフトはどなたもいらっしゃらない。私は福田康夫さんを入れたいが、日中関係は難しい、悲観めいた感じがします。

日本の力はソフトパワーにあります。軍事的には、日本は核戦力を除けば東アジアで最強の国です。日本人は意識しないが、自衛隊の力は膨大なものだということをよく理解して、日本の皆さんは謙虚になって欲しいのです。

一方、被害者であった韓国、中国はもう少し寛容であるべきだといいたい。虎の子が自分の傷口を舐めるように、いつまでも過去の傷口を舐めていたらだめです。自分への誇りを持つべきです。韓国は解放直後の(朝鮮)戦争で国土が全く灰塵に帰した中、国民1人当たりGDPは82ドルから、いま16、000ー17,000ドルにまでなりました。奇跡といわれた経済発展をし、OECD(経済協力開発機構)のメンバーにもなりました。メンバー入りはアジアでは日本の次に韓国でした。また、軍事政権は民主化されました。「植民地統治36年間のつらいことばかりでなくて、独立主権国家として60年間やってきたことにもう少し誇りを持とう」と私は言っています。謙虚さと寛容さがなければ、日韓関係、日中関係は、Win-Win(両方とも勝ち)の関係にはなり得ません。

それでも日韓パートナーシップに希望が

韓国と日本の国交正常化から40年です。国交正常化交渉は14年2カ月かかりました。1951年10月、その第1回の会議で、韓国は日本に「我々は和解しましょう、新しい関係を築いていきましょう」と言いました。それに対し、日本の首席代表代理は、「和解すべき何があるか」と切り返すんですね。その2年後、日本側の久保田貫一郎首席代表から、「日本は植民地統治のときにいいこともやった。鉄道も敷いたし道路も教育もやった」という発言が出て、4年半交渉が中断しました。こういう隔たりが当初はあった。その後65年に国交正常化して、95年の村山総理の総理談話、98年の金大中大統領と小渕(恵三)総理のパートナーシップ宣言と歩んできたわけです。こういう半世紀に近い間の進展を見ると、これから50年先は非常に明るいのではないかと私は見ております。

●一問一答

―小泉首相は自分の靖国参拝について、「日本人というのは罪を憎んで人を憎まずで、死んでしまえばみんな仏さまだ」と話している。そのように言う宗教学者もいる。共感する人もいると思うが、中国の方からすればとても共感できないだろう。

  私は小泉さんの参拝がどういうイメージ、メッセージを外側に送るかということが問題なのだと思います。「死ねばA級戦犯ではない」というようなメッセージは、結局、韓国、中国には伝わりません。グローバリゼーションの世の中ですから、一国主義で推し進めていっては壁にぶつかる。インターナショナルな理解を求めて、互いに譲歩しあって共通の答えを作り出すべきです。「これは日本のカルチャーだから」で終わるものではないというところが、問題の核心なのです。

日本は「広がりのある反日意識」、認識を

―中国の反日デモは共産党政権に対する不満の捌け口であり、韓国では盧武鉉政権が支持率回復を狙って小泉批判へと姿勢を変えた、という説明がされていますが。

  中国政府がこの反日デモを非常に懸念しているのは事実です。ただ、中国政府に対する不満がこういう形で発露したというように、単純に白黒的な見方をするのは事態を糊塗することになる。いくらかそういう面もあるでしょうが、もっと広がりのある反日的意識があることは認識せざるを得ないと思います。

韓国の場合は、盧武鉉大統領が3月1日の記念演説で「賠償」という言葉を使ったのに対し、日本の政府スポークスマンが、「(韓国の)国内事情もあるのではないか」と言ったというので、韓国政府は強く反発した。3月1日というのは、日本でいう万歳事件、1919年の独立運動の記念日です。記念日の性格から歴史の話が出てくるのは当然です。しかし、記念演説には、韓国と日本はお互い手を携えて東アジアを切り開いていくべき「運命共同体」であるという文章も入っています。韓国と日本が協力しあわないと、国民の本当の安定と幸福はあり得ない、という趣旨です。

フランスは第2次大戦のあと、反逆的な行為を行った国民を非常に厳しく罰したが、ドイツとは手を携えてEUをつくった。我々韓国も心の広い隣人として日本と協力していくことが望ましいということを言って、そのためには日本は歴史を直視し、補償すべきことは補償し、賠償すべきことは賠償していく、これが世界一般的なやりかたであるという文脈で、「賠償」という言葉が出てくるわけです。大統領も韓日両国は協力していくべき運命共同体であると強く認識しておられるということです。

一月、国交40周年で日韓交渉に関する文書が公開されまして、請求権の問題が新しく話題になりました。請求権に該当する人たちの世論が相当高まってきたので、それも意識したかとは思います。しかし、事の本質はなんとかして歴史認識を日本とともにし、そこのところのけじめをきちんとしていきたいという強い気持ちです。

韓国は中国をどう見ているか

―日本と韓国は交流が深まっているので大丈夫かもしれないが、経済的にも軍事的にもどんどん大きくなってくる中国と日本の関係は難しいというお話がありました。中国と韓国の違いを、韓国の立場からどのように見ていらっしゃるのでしょうか。

  5月10日のブッシュ大統領と盧武鉉大統領の会談の後に韓国の新聞に出た話ですが、会談で盧大統領から、韓国は過去百数十回、中国からの侵略を受けているという話がでたというのです。韓国人の中国に対する感情は一概には言えないですね。韓国独立に至る第2次大戦中やその後の関係で、我々は中国に大変恩義に感じるところがあります、蒋介石さんの国民政府ですが。カイロ宣言(1943年11月、蒋介石中国国民政府主席、ルーズベルト米大統領、チャーチル英首相が署名)にこう書いてあります。「朝鮮民族の奴隷化に留意し、韓国の自由と独立を適切な時期に与える」。韓国の臨時政府が中国で正式の亡命政府として承認され、国民政府の庇護を受けたわけです。他方、歴史的に見れば絶えず中国の目に見えない影響下でずっとやってきましたし、中国の勢力とは絶えず衝突しあったわけです。高句麗は隋、唐と大きい戦争をやっていますし、新羅は唐と手を組んで百済を下して韓半島を統一するわけです。ですから一概に、日本の植民地支配に対する反発としてすぐ中国に、とはいかないですね。

盧武鉉政権ができたときの選挙で当選した国会議員の4分の3は新しい人でしたが、その人たちの意識調査で、アメリカより中国のほうが親しいというような親中感を述べた人が60パーセントいて、盧政権の中核の人たちは親中派だと言われたことがあります。その後ありがたいことに、胡錦涛さん(中国国家主席)の指示の下で「高句麗は中国の地方政権であった」という歴史の書き方がされて、韓国で非常に強い反発を受けました。中国はそんなに甘くないと思い知らされた事件でした。また、中国は韓国にとって第一の貿易相手国であり、第一の投資対象国です。経済的にも非常に強いつながりができていますので、中国とどう付き合うかは、日本、アメリカだけではなく韓国にも非常に大きな問題になってきました。

この巨人の中国に韓国がどう対応するかで、私が一生懸命に言っているのは韓米同盟です。巨人中国からの目に見える圧力、見えない圧力すべてに立ち向かうには、背後から後押ししてくれる強い力が必要で、一番理想的な支えはアメリカです。アメリカが我々の同盟国であるということは、実は北京には魅力的です。韓米同盟のない韓国は、山東省より小さな地方政権にすぎません。山東省は広さで大韓民国の1・7倍、人口で約2倍あります。しかし韓国は、アメリカが同盟国として存在するということで、中国にとってそれなりに利用価値があります。アメリカの同盟国であることが我々にも、対外的カードを与えます。どうもそこのところが、今の韓国政府の安全保障会議に座っている人々にはわかっていないような気がします。

朴正煕・元大統領のお嬢さんで、現在、野党ハンナラ党代表の朴槿恵さんが中国に行ったら、胡錦涛さんが非常に厚く接待しました。私は2つの理由があると思います。ひとつは、今の中国の指導層は朴元大統領の「祖国近代論」という論文を非常に評価して、国造りのモデルにした。中国でベストセラーになっており、非常に多くの中国共産党の幹部たちがよく知っているそうです。朴元大統領に対する尊敬の念です。もうひとつは、韓国がアメリカのしっかりした同盟国であることが中国には魅力があるということを、韓国に発信したのだと思います。

韓米同盟は中国にも益が

  私は96年、ちょうど台湾海峡の危機があったときに、北京公式訪問のあと、真っ直ぐワシントンに行きました。ペンタゴンでペリー国防長官に会ったとき、「なぜ、アメリカに来ることになっていた中国の遅浩田国防相の訪問を延期したのですか。こういう時こそ中国のリーダーたちとの会合が必要ではないか」と言ったのです。ペリーさんは黙って聞いたままだったので、僕の言ったことは独白に終わったのかと思って帰ってきたんですね。するとその晩、うちの駐米大使が電話をしてきて、今ペンタゴンから、スローコム国防次官を北京に行かせることにしたので伝えてくれというメッセージが届きましたと言う。彼は訪中し、その年の暮れに遅浩田氏がアメリカを訪問しました。韓国はアメリカの同盟国としてそういう建設的な役割ができるのです。それをやれるためにはしっかりした同盟じゃないとだめだと思います。今はその韓国の位置を小泉さんが奪っちゃったけれども。

韓国はベトナムなどで一緒に戦った、アメリカとは血を分け合った同盟ですよ。若い世代はそういう貴重な資産をポイと投げ捨てかねないとの懸念があるので、そういう発言をする。すると「保守石頭」と言われる。石頭どころか、むしろ僕の方がソフトだと思うのですがね。

―韓国が米国の同盟国であることを、中国はなぜ重視するのでしょうか。また、北京の大学教授からは、竹島をめぐる韓国の激しい反応が中国で放送されて中国の若い人たちのエモーショナルな気持ちに火をつけたと聞きました。逆に韓国は中国に刺激されて、これまでさほど言ってこなかった靖国問題に強く言及するようになったのではありませんか。

  後半の質問への答えから。デモの当初、石や物を投げるのを警官隊が制止しなかったのは、下手をすると日本に対する敵愾心が今度は政府に向かってくる可能性があるので、そこをコントロールしようという気持ちが随分強かったためだと思います。中国政府の弱みと理解せざるを得ません。インターネットの問題も含め、中国政府も今度の反日デモから色々な問題を汲みとったと思います。中国のデモを見て韓国が少し手ぬるいとは、韓国ではあまり感じていないでしょう。

さて韓米同盟です。先ほど触れた台湾海峡危機のとき、僕がワシントンに行くというので、中国が色々自分たちの考えを私に伝えてきました。もちろん中国はアメリカと直接対話する間柄でありますし、仲介も必要ないのですが、アメリカの同盟国である韓国が中国に対して悪くない感情を持つことは、(中国にとって)心強い友人を持つことになる。彼らはそう期待していると感じます。

「バランサー」としての韓国

  (北朝鮮の核問題をめぐる)6者協議ができる前に、日本とロシアを含まない4者協議というものがありました。日本は心中穏やかではなかったのですが、私どもは、いやこれは休戦協定の当事者の話なので休戦協定の話を中心にしますと一生懸命言いました。(四者協議がスタートする前)中国も自分たちを四者協議に入れてくれと我々のところに一生懸命言ってきていた。それも平壌がイエスと言うようにと。中国は平壌がノーと言うのではないかと懸念していたのです。そういう微妙な関係もありますから、中国だって色々な手を持つ方が有利だと感じると思いますよ。

中曽根さん(元首相)が盧武鉉大統領の就任式に来られて、「韓国は中国と日本の間の仲立ちをしなさい」とアドバイスしました。実際に仲立ちをした経験が随分あります。僕が外相の時、ASEANプラス3で、韓日中の外相会議を朝食会か昼食会で持とうと日本に言ったら「中国はなんと言いますか」。中国に言ったら「日本はなんと言いますか」。日本と中国はお互い非常に気を使うんですね。

その後、98年に小渕さんが金大中大統領に提案しましたが、金大統領は聞き逃したのか一切反応しなかった。その翌年、当時の河野(洋平)外務大臣を、金大中さんのところに行かせて、うんと言わせた。それを持って今度は小渕さんが北京に行って「韓国もうんと言ったのだからやりましょう」と言った。この時、中国が何と言ったかご存知ですか。「じゃあその朝食会は私どもが持ちます」と。自分が主催することを条件に、マニラで初めてやりました。

 日本と中国にはお互いにアジアの盟主という意識があるのでなかなかですが、韓国は両方の取り持ちをやれる。これをやるには、両方にとって協力国であるという信頼が必要です。二股膏薬ではありません。二股膏薬では両方に信用されない。三国の共同体的な意識を分かち合う、盧武鉉大統領言うところのバランサーです。

―しかし、アメリカとも関係が悪くなる、日本とも悪くなるという今の状況ではバランサーもできにくいのでは。

 それはバランサーではなくて孤立。韓国でいまバランサー論に対するケチがついている。大統領の演説文を読むと、19世紀的な英国のバランサーの役割を考えている。我々がどこに付くかによって、アジアの勢力の版図が違ってくると。これに対し国内では、韓国は何の力を持ってバランサーをやるのか、バランサーはアメリカがやることで、のぼせるなとの批判が出た。それで、二人の安全保障担当補佐官が、いや、そうじゃなくて東アジアの、韓国と中国と日本の中で調整役をやるという意味ですと一生懸命言っている。いい意味の調整役です。

日本は米国の対中政策を見誤ってはならない

―自民党の人々には、日本は中国と悪くなっても韓国と悪くなってもアメリカと仲良くしていれば大丈夫だという捉え方が強い。しかしアメリカにとっては、中国とは覇権国家同士の戦略的な関係だし、韓国とは朝鮮半島の問題が絡んで、それぞれ利害の質が違う。孔先生がアメリカ大統領ならこの状態をどうしようと考えますか。

  基本は、中国をどう見るかです。ブッシュ政権ができる前に、ライスさん、ゼーリックさん(現国務副長官)がフォーリン・アフェアーズ誌に書いた論文を読むと、中国を「戦略的な競争者」と位置づけている。また、「ならず者国家には報いない」ともある。この2つは今もあります。ブッシュ政権は、中国は将来アメリカの安保上の挑戦者になるんじゃないかと考えている。だから、ラムズフェルド国防長官が、「中国は何の脅威があって国防費を増額するのか」と正面から批判したりするのです。

しかし、今の政権の考え方がアメリカの全部ではない。中国との将来の提携を真剣に考えている人が、民主党はもちろん共和党にもいる。キッシンジャーも、「今の中国の国防費はアメリカの20%だからたいしたことはない、ガミガミ言うな」という意味合いのことを述べている。中国に対する考え方は、私は変わっていく可能性があると思う。中国がアメリカとむしろ協力しようという態勢のなかで、敢えて中国に近づくなというようなことはやらないと思います。

中国、韓国は突き放してもいいから、しっかりアメリカだけ見ておれば日本のアジア戦略は問題ないとの主張は正しくない。アメリカが変わったらどうします。実際、クリントン前大統領のときは中国を「戦略的パートナー」と言っていたじゃないですか。ネオコンが入ってきて対決姿勢を高めたのですが、そのアメリカも9・11以降は中国と戦略的提携を行っているのです。

1971年以来、中国との関係は最高であるとは、アーミテージ前国務副長官も言っています。彼は第1期ブッシュ政権の実績のひとつとして中国との関係改善を誇っている。中国が日本と喧嘩するのをアメリカは後ろで手を叩いて火をつけるという風にしか考えられないというのでは、大きな間違いになる可能性があります。日本が中国と喧嘩して米中関係が害される場合は、(日本に対して)ちょっと待ってくれとなるかもわからない。

韓国と日本の国交正常化交渉が始まったとき、日本にとって正常化はありがた迷惑だった。翌52年サンフランシスコ講和条約ができて、韓国は平和線(李承晩ライン)を宣布した。侵犯した日本の漁船を拿捕して釜山に抑留、ある時期その数は千名にのぼったので、日本もしぶしぶ国交正常化交渉に乗ってきた。しぶしぶの日本と反日感情の強い韓国の交渉を、7次交渉に至るまでねばり強く、うしろで背を押したのはアメリカです。自分の同盟国である韓国と日本を結びつけるというアメリカのアジア戦略があった。そういう前例がありますから、中国と日本とアメリカとの三角関係に、その側面が今後大いに出てくる可能性があると思います。

アメリカのアジア戦略は初期から日本を中心に考えていました。1950年6月25日に韓国戦争(朝鮮戦争)が起き、3日目にソウルが落ち、韓国は大邱と釜山の三角形の中に閉じ込められ、7月25日ぐらいまで死活をかけた戦闘が繰り広げられた。あのとき李承晩大統領は、トルーマン米大統領に手紙を書きました。「38度線はもうなくなったのだから、北進をすべきだ」と。アメリカの国務省で一大論争が起きました。38度線で止まるか、それを越えて北進するか。最終的に北進に決まりましたが、そのときジョージ・ケナンがアチソン国務長官にメモランダムを送りました。要旨は、ソビエトに反対する政権というのは朝鮮半島ではできそうもない、日本をして朝鮮を経営させるしか方法はない、というものでした。韓国人としては非常に悔しいですね。当時、世界戦略を考えていたアメリカ人の頭の中では、日本を軸として、東アジア、アジアが考えられていた。今日の小泉さんの対米政策は、そういう流れをうまくつかんでやっているといえるでしょう。

再度の靖国参拝は「裏切り」と映る

―小泉首相がまた靖国を参拝したら、韓国と中国はどういう対応をとるでしょうか。導火線に火をつけるような小泉さんの発言をどう分析されますか。

  今年の8月までにもう1回参拝があれば、韓国はもちろん中国とも非常に収拾のつかない状態になると思います。昨日の盧・小泉会談は非常に率直で真摯に意見を述べ合って温かな雰囲気だったと聞いています。盧武鉉大統領は当初触れないつもりだった靖国の話を持ち出したそうで、懇々と韓国の考え方を述べ、それに対し小泉さんも話されたのですが、彼はA級戦犯には言及しなかったそうです。そういうふうに誠意を尽くして話をしたにもかかわらず、小泉さんが参拝すれば、大統領は人間的に裏切られたという感情を持つでしょうね、個人的に。

なぜ小泉さんがここまでやるのかは、私にはわかりません。ただ、ひとつこんな皮肉な見方があります。戦後の清算は中曽根さんが「やる」とおっしゃったが、小泉さんの中には、むしろ戦後の清算は私がやるということがあるのではないか。靖国に参られるあの小泉さんのパフォーマンスは、日本のいわゆるナショナリズムに訴え、そこから出てくる政治的サポートを十分計算に入れているのではないかと思います。韓国の政治評論を書く人の中ではそういう見方をする人が相当います。江沢民さん(前中国国家主席)の反日教育がいろいろ言われるが、むしろナショナリズムの火つけ役は日本である、小泉さんであると言う人がいることを日本の皆さんは知っておく必要があります。歴史清算がまだなされていないと言われている中で、「新しい歴史教科書をつくる会」の動きや憲法改正の話が出てくることで、隣国にはそういう見方が出てきていることを知って欲しい。

歴史清算の話をすると、日本の方もうんざりするし、韓国人ももう余り言いたくないが、日本もひどいことはひどいですよ。村山総理の談話は閣議決定を経て出したのに、日本の大新聞の1つが、「あれは私見だ」と言ってしまうと、経緯を知らない韓国や日本の人は、「なんだ」ということになる。歴史に対する反省という意味では、韓国の大統領が来るたびに天皇がおっしゃるし、総理大臣も共同声明の中でたびたび言うが、すぐに閣僚とかが反対の意見を述べられるから元の木阿弥になってしまう。同じことの繰り返しです。だから、最近盧大統領がいうように、言葉ではなくて行動で示してくださいとなってしまう。

「謝罪」にはジェスチャーが必要

―謝れ、謝らないの問題は、世代交代が進んで、日本人の若い人々には謝る気持ちがほとんどなくなっている。政府間でいろいろやるだけでは限界がある。

  私が駐日大使の時、小沢一郎さん(現民主党副代表)を国会に表敬訪問したら、開口一番、あなた方は謝れ謝れ言うが、昔は我々があなた方にやられた、と言うんですね。最初は何を言っているのか分からなかったが、彼は岩手、東北(の出身)でしょう。その昔、渡来人の京都奈良王朝が新しい勢力として関東に来て、そこに住んでいる人を北に押しやったことでした。謝ることは公式にはもうやっていると思いますが、ジェスチャーが必要なのですよ。

今の日本の大半の人は戦後生まれでしょ。国交正常化当初の頃の人たちとは考えが違います。久保田さんの妄言の中にこういうのがある。「韓国が48年8月15日に独立したのは国際法違反である」と。あなた方はサンフランシスコ講和条約でカイロ宣言を認めたじゃないかと反論すると、久保田さんは、「カイロ宣言は連合国が戦争ヒステリーで言ったことで、我々は韓国を奴隷化したことなんてない」と言う。あの頃の日本人の対韓認識は、民主日本という新しい環境の中で随分風化している。だから、(今の日本人に)謝れといっても限界がある。謝ることはもういいから、日本側が火をつけるなと言いたい。昔は○○大臣が変なことを言うとすぐクビになったが、最近、小泉さんはクビにしない。変なことを言って刺激しなければ、新しい両国関係がどんどんできてくれるのですが。

―日韓関係の収拾がつかなくなっても小泉首相は靖国参拝をするかもしれない。そうなったら、韓国はできるだけ対立の少ない形でやり過ごし、その次の人との間でものを考えようということなのでしょうか。

  小泉さんの参拝が同じような形でなされたときは、おそらく盧武鉉さんは10月に予定された首脳会談はしないでしょう。また、政治関係の交流には相当な支障がもたらされるでしょう。やはり、次の新しい政府の出現を待つとか、そういうことになると考えられます。

(担当・構成=吉田秀雄・総合研究本部主任研究員)

2005年8月19日

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