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中国人青年からのメール

天児 慧 (あまこ さとし)
早稲田大学教授

現代中国論。早大アジア太平洋研究センター副所長。朝日新聞アジアネットワーク委員。58歳。

「先生、皆様へ。この2年間、大変お世話になりました。脳裏にさまざまな思いが浮かび、本当に感無量です。いろいろ考えましたが、やはり一言、ありがとうございましたと言いたいと思います」

日中、日韓の政治関係は、ある意味では凍結状態に入ったかに見える。しかし、トップ指導者の交流だけが国と国との関係ではない。9月に日本留学を終えて帰国した中国人青年W君から先ごろ、私のゼミあてにメールが届いた。

メッセージは続く。

「ありがとう日本! 険しくも恵まれた自然風土。厳しい規則を保ちながらも寛容であり続ける社会。そして、自己に対しては内省的で自律的でありながら、自然や社会、他人に対しては優しく感謝の念を抱く人々……広大な欧亜大陸と果てしない太平洋に挟まれた小舟のような島国が、世界と文明に対し、これほどまでに貢献し咲き続ける貴重な一輪の花――日本は本当に不思議な国です。この日本の文明をつぶさに観察し、身をもって体験することができたことは、まさに私の幸せと感じるところです」

彼の論文テーマは日本の農業政策を歴史的に考察し、今後を展望することだった。北海道をはじめ様々な農村地帯を訪ねた。中国の内陸で育ち農村をよく知る男である。日本各地で人々と出会い、自然と農民との共生や節約・循環的社会のメカニズムなどを体験したようだ。

日本の農村が抱える苦悩以上に、そうした面が印象深かったのだろう。大都会東京の効率社会と農村のリズムの不均衡性も、中国の都市と農村の落差と比べれば不思議なハーモニーに映ったのかもしれない。

W君からのメールには「感謝」という言葉が繰り返し出てくる。日本国内には今、中国に対してムキになっている空気がある。その原因の一つに「中国は日本を批判ばかりしている」という意識が強いように思う。私が彼のメールを長々と紹介したのは、「そうでもないよ」と伝えたかったからである。

もちろん、失望して帰国する留学生はいる。「日本人は表面的には愛想がいいが、実際は冷たい」との批判を聞くこともある。今年の春は中国での反日行動が日本のテレビで過剰に報じられ、中国人留学生が住む宿舎に右翼の宣伝カーが連日押し寄せた。ボリュームをいっぱいに上げた誹謗(ひぼう)中傷に、嫌な思いをした留学生は少なくなかった。W君だってそうした事実に鈍感であるはずはない。それだけに彼の言葉には重みを感じる。

私は親日派の留学生を育てようなどと思ったことはない。日本に対して好きな部分、嫌いな部分を持つのはごく自然なことだ。大事なことはまず思い込みを排除し、相手の立場や感情を理解し、評価すべき点、批判すべき点を率直に見られるようになることだろう。

日本人自身のアジア観でも同じことが言えると思う。

日本、中国系(大陸、台湾、香港)、韓国、豪州、タイなどからの大学院生40人余りを抱える私のゼミでは、ようやく何でも議論できる雰囲気になってきた。台湾論、中国脅威論、そして日本脅威論……。政治的には敏感な問題でも、アカデミックな議論である限りは何を話してもよい。その中で多分、私を含めて誰もが国籍を意識する前に、1人の人間としてゼミの参加者になっているのだと思う。

日本で学ぶアジア人留学生を取り巻く状況はまだ改善すべき点が少なくない。奨学金を受けられず、勉学よりもアルバイトに時間を割かねばならない人も珍しくない。住宅問題もある。

ちなみに、W君は国際協力機構(JICA)の無償援助人材育成プログラムの派遣で日本に来た社会人学生だ。政府の資金がアジアの若者たちのために生かされる。それが、ひいては日本とアジアの関係をよりよくする。W君のメールを読んで、こうした面での充実がいかに必要かを改めて痛感している。

2005年11月16日


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