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AAN発
越境する文化 時空をこえて

タブーに挑む:歴史証言 新たな模索

交流が進むアジアの文化は、日本の侵略と植民地支配という重い過去を今なお背負っている。越境を加速させた近代化の光と影も、共通課題になり始めた。21世紀、文化と歴史の関係を考える。

藤生 京子
AAN「越境する文化」チーム主査

「心ある日本軍人」描くドラマ

文化表現に様々な制約は残る。それでも成功を夢見る中国の若者たちのまなざしは明るい=北京市の北京電影学院で、川村直子撮影

抗日戦争勝利の記念行事が中国各地でおこなわれた戦後60年。その一年が幕をあける直前に、7千万人をくぎづけにしたドラマがある。中央テレビの「記憶の証明」。日本の女子学生が旅先の北京で1人の老人に出会い、日本軍の労働収容所を生きのびたという終戦まぢかの記憶を、中国の若者と手を携えたどっていく物語だ。

注目された理由の一つは、日本人俳優扮する主役級の日本軍人の描写だった。中国人への理解を示し、残虐な行為への加担に苦悩する――。日本軍の野蛮さを前面に打ち出す「抗日ドラマ」からすれば異例で、俳優のファンサイトがネット上にできるほど人気になった。専門家の評価も高く、多くの賞を獲得した。

「心やさしい人々が、なぜ残酷な行為にかかわったのか。戦争という特別な状況が人間性を脅かす過程を掘り下げたかった」

監督の楊陽さんは40代の女性。5年前に中国初の離婚ドラマで脚光を浴び、戦争ものは初めてだった。しかし従来の抗日ドラマを超えたかった、と野心的だ。

中国のテレビは政府の検閲をくぐり抜けなければならない。実際、細かな指摘を受け、完成まで通常の3倍近い10カ月をかけた。

「単純に憎しみをあおるだけの物語は、意味がない。戦争を感情的でなく、理性的に考えなければならない時代だと思うんです」

もっとも、日中の外交関係が厳しさを増す中、ネット上などには「日本軍への批判が足りない」との抗議も寄せられた。日本の元軍人が反省の色をみせるラストシーンは「今も反省していない日本の政治家は多い」「理想的にすぎる」と指摘された。

楊さんは反論する。「文化の役割は、唯一正義のスローガンではない。複雑な人間性を描いてみせることです」。次作も、戦争を題材に取り組んでいる。

90年代に盛んになった中国政府の愛国教育は、創作現場に影響を及ぼし続けている。それでも変化のきざしが見え始めた。「記憶の証明」のほかにも、日本軍人の苦悩を描いたり、日中の若者が友好的な未来を志向したりする作品がある。映画では「戦場に咲く花」や「秋雨」。小説でも既に40代前半の作家らの新しい描写が生まれている。藤井省三・東大教授(中国文学)は「戦争を相対化し、大きな歴史の中で普遍的なテーマを描く時代が訪れつつある」と言う。

二元論脱し、悪口で笑いあう

再演された「その河をこえて、五月」=05年5月、東京・新国立劇場で谷古宇正彦氏撮影

日帝協力者への厳しい対応をみせる盧武鉉政権の韓国も、同様だ。02年秋に大ヒットしたドラマ「野人時代」は、日本官憲の内面や背景にもふれ、目をひいた。文化研究でも、日本統治時代の風俗を漫画で読み解く「モダンボーイ、京城を闊歩す」などの出版が続き、「統治」対「抵抗」の二元論をこえた検証が始まっている。

劇作家の平田オリザさん(43)は、02年に韓国の人たちと共同執筆・演出した「その河をこえて、五月」を昨年、日韓で再演した。

二人三脚で書き上げた台本には、日本人が韓国人の悪口をぽんぽん言う場面が出てくる。初演では軋轢も聞こえてきた。韓国側が腹を立てていたとか、ソウルの客席に緊張が走ったとか。でも3年たった昨年は、客席は爆笑の渦に包まれた。「加害者」対「被害者」にとらわれず、笑い合える時代がようやく来た――。韓国とつきあって20年を越す平田さんの口ぶりは、感慨深げだ。

とはいえ、常に韓国の演劇人らの立場に心を砕く。特に竹島問題があった昨年。ラスト近くで、韓国人の母親が日帝時代に覚えた日本語の歌を口ずさむシーンは、日本人のために歌って、と促すせりふを補うことで「親日的」との批判をかわした。

平田さんの芸術家としての倫理ははっきりしている。「日帝時代に家族を拷問で殺された人が、僕の隣の席に座っている。そこで見せられる芝居かどうか、です」

過ちの理由問い、現代に重ね

安彦 良和「王道の狗」(白泉社刊)より

「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」で知られる漫画家の安彦良和さん(58)は90年代前半から、30年代の満州建国大学を主舞台とした長編「虹色のトロツキー」に取り組んだ。罪滅ぼしの告発ものでも、武勇伝でもない物語。戦後教育の中で聞かされた「戦前の日本人はダメ」とは言い切りたくない気持ちをこめた。「一途な心と情熱をもった人々でも、侵略という過ちを犯した。それが歴史なんです」

その複雑さを描く上で、自戒した。日本人を「いい人」ばかりに描かない。植民地経営で良いこともしたといった「開き直り」に転落してもならない。過ちの理由を考え続け、たどり着いたのが昨年、単行本に完結した「王道の狗」だ。自由民権運動から日清戦争へ。朝鮮の近代化の失敗に便乗した日本の変身に、覇権主義の端緒を見いだした。

「先生は野蛮な後進国が文明国に滅ぼされ、(中略)他国に支配されるようになっても仕方ないというお考えなのですか?」。アイヌ集落に身をおいた主人公が、福沢諭吉にただす場面がある。

安彦さんには、道義より列強にくみすることを重んじた思想家が、いまイラク問題などでひたすら米国追随を続ける小泉首相と重なってみえて仕方がない。

勇ましい戦争漫画が売れる時代。自作が中韓で翻訳される日を、ひそかに期待している。

インタビュー:四方田 犬彦さん
紋切り型・感傷排し向き合う

よもだ・いぬひこ 映画史家・明治学院大教授
53年生まれ。韓国・建国大客員教授などを歴任。著書に『アジア映画の大衆的想像力』など。

中国や韓国で歴史認識をめぐる文化表現が変わってきた背景には、三世代の意識の違いをとらえる必要がある。

まず、日本の侵略と植民地統治の直接体験をもつ第一世代が減った。反日の一方で個人的な交流も持った両義的で複雑な記憶が、風化しつつある。その下の第二世代は反日教育の影響で対日観は厳しいが、体験がないため観念的になりがちだった。

日本との交流が進んだ時代に育った第三世代は、第二世代への反発もあり、歴史認識の断絶が生じている。中国の「愛国教育」は90年代に盛んになったので状況は違うものの、両国とも新世代の登場が決定的変化をもたらした。

では日本人はどんな姿勢で臨むのか。私が最も危険だと考えるのは感傷性だ。侵略と植民地の犠牲者を聖人化し、永遠化する態度である。

戦後、そういう風潮を担ったのが、えてしてリベラル派だった。在日朝鮮人なら道徳的に正しい犠牲者、中国人ならコミックな料理人といったステレオタイプが作られ続けた。映画でいえば、変化は崔洋一の「月はどっちに出ている」から。だらしないスケベな在日朝鮮人。あれは日本人の作り手にはできなかった。

この感傷性の根は、京城という名を消しソウルと置き換える日本の一部メディアと同じだ。韓国へのヒューマニスティックな配慮のようで、歴史の隠蔽でしかない。日本人は京城と改名させた歴史を、痛みと恥をもって記憶しなければならない。

感傷性はまた、ノスタルジーや異国趣味とも結びつく。「台湾映画には日本がなくした心がある」というような。それが植民者のまなざしである点を自覚すべきだろう。

従軍慰安婦を作品に描く日本人の試みは、90年代に問題化する前からあった。映画では黒澤明。だが連合国軍総司令部(GHQ)に禁止され、日の目をみなかった。ようやく鈴木清順が「春婦伝」で志を継いだ。作家の田村泰次郎や漫画家の水木しげるも慰安婦から眼をそらしていない。

彼らにあったのは戦中派の複雑な思念だ。紋切り型を離れ、それに直に向き合うことが、東アジアの歴史認識にいま、必要なのだ。(談)

2006年1月9日


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