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The Asahi Shimbun Asia Network
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AAN発
アジアのエネルギー協力



エネルギー資源争奪症候群を問う(上)

対中国 どう折り合う

取るか取られるか。まるで「エネルギー資源争奪症候群」という熱病に世界各国がかかってしまったかのようだ。エネルギー情勢を、古典的な「地政学」の視点から見る風潮も強まっている。そんな熱病に日本も感染していないか。朝日新聞アジアネットワーク(AAN)の「アジアのエネルギー協力」チームは、地域の需給のキープレーヤーである中国、ロシアの動きを検証し、日本の置かれた状況を考えた。(アジアネットワーク主査・小森敦司)


需要増 活発な資源外交

中国の春暁(日本名=白樺)ガス田の採掘施設。後方に見えるのは天外天(日本名=樫<かし>)ガス田=14日、東シナ海の日中中間線付近で、本社機から、溝脇正撮影

アフリカの産油国アンゴラを6月に訪れた中国の温家宝首相は「インフラ、通信、エネルギー分野の協力を拡大していく」と強調した。国際社会から政治腐敗が指摘されるアンゴラに、中国はこの時に経済復興のための20億ドル(約2300億円)の融資を表明。これで海底油田の権益を手に入れたとされる。

急増するエネルギー需要を賄うための中国の資源外交が活発だ。6月に発表された米エネルギー省の予測だと中国の03年の石油消費560万バレル(日量)は、30年に1500万バレルに増大する。

中国の進出先がアンゴラなど国際社会の「問題国」に多いのは事実だ。「有望な地域はメジャーが押さえてしまっている。精製能力に合った軽質・低硫黄原油が必要なことで進出先も限られている」(中国のエネルギー専門家)ことが背景にある。

パニック買いも懸念される。実際、02年11月に20ドル台半ばだった米国産WTI原油の価格が03年2月に30ドル台後半まで値上がりしたのは、米国のイラク攻撃を前にした中国による買いだめも一因と市場はみる。逆に「高値づかみ」と市場が冷笑する権益獲得もある。

世界は中国という大魚を、限られた資源のプールで飼いならす必要があり、中国もこのプールに慣れることが必要かもしれない。


日米、行く手封じに躍起

ところが、日本や米国は、中国の行く手を封じるのに躍起になっている。あえて中国側の視点で最近の動きを追う。

中国が先行していた東シベリアからの石油パイプライン。それが03年1月の日ロ首脳会談で日本海沿岸に至る構想が急浮上し、中国向けは支線扱いにされる可能性が高まった。

東シナ海の春暁(日本名・白樺<しらかば>)ガス田も、03年8月に中国の石油大手、中国海洋石油(CNOOC)などが開発を発表していたが、日本は一定程度開発が進んだ04年6月になって抗議した。

米国でも、CNOOCが米石油大手ユノカルの買収を提案したが、米議会の反対で05年8月、断念に追い込まれた。米エネルギー省の予測だと、米国の石油消費も03年の2010万バレルが30年には2760万バレルに増える。米国は今後も石油をどんどん飲んでいくつもりなのだ。

米国は、中国と距離的に近く、豊富な資源も期待できる中央アジアのトルクメニスタンからインドまで天然ガスパイプラインを引く構想を後押しする。

日本の麻生外相も今年6月、東京で中央アジアの外相たちとの会合を開き、資源確保の観点からこの地にかかわっていく姿勢を示した。小泉首相も28日、カザフスタンとウズベキスタン歴訪に旅立った。


埋蔵、サハリンの数十分の1

春暁、薄い利点

アジアには、中国とうまく折り合っていこうとする動きもある。

中国、ベトナム、フィリピンの石油会社が05年3月、かつて「紛争の海」とまで呼ばれた南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島周辺での資源共同調査に合意した。「地域の平和と安全への外交面の突破口となるだけでなく、エネルギー自給の突破口にもなる」。フィリピンのアロヨ大統領は手放しで喜んだ。中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の安全保障対話の結果、資源をめぐる協力関係も築こうという段階になっている。

中国にとって、生産の一歩手前まで進んでいる春暁ガス田とは時間軸が違うのは確かだ。しかし、日本にとってはどうか。CNOOCの資料だと春暁ガス田一帯で確認されている天然ガスの可採埋蔵量は約0・7兆立方フィート。天然ガスのパイプラインでの販売先の確保に苦労している「サハリン1」で推定される可採埋蔵量は約17兆立方フィート。サハリンでは他地区でも開発が進む。春暁ガス田はサハリンの数十分の1の規模に過ぎない。

日本のエネルギー業界にも、「春暁は小さく、九州への距離も遠い。パイプラインを引くメリットは少ない。日本が権益を取っても中国で売るしかない」(日本の石油会社首脳)との声がある。

日本は人口減などでエネルギー需要はすでに横ばい。領海問題がナショナリズムを刺激しているように見えるが、エネルギービジネスの観点から見ると、日本は春暁ガス田の交渉などの場に「余裕」を持って臨める状況にある。


冷静に合理的な戦略を


堀井 伸浩氏
アジア経済研究所研究員
AAN客員研究員

71年生まれ。中国・清華大客員研究員を経て、03年から日本貿易振興機構アジア経済研究所新領域研究センター研究員。共著に「中国のエネルギー産業―危機の構造と国家戦略」「東アジアの挑戦」など。

中国の国有石油企業が、アフリカやラテンアメリカ、イランやロシアなどで、石油・天然ガス資源の開発プロジェクトを立ち上げるというニュースが次々と流れる。これにあおられて、日本も中国に対抗して、海外権益を押さえにかからなければ、とする意見が聞かれる。「日の丸原油」追求論の復活といった趣だ。

だが、国がエネルギー資源の確保を担うのは高コストだとして、日本の石油・天然ガス開発に当たってきた石油公団の解散を国会が決めたのはわずか数年前の02年だった。ムードに流されて公団を廃止した時のような場当たり的な対応はいけない。

中国の動きを冷静に分析するべきだ。実は中国の海外の開発プロジェクトには、筋の悪い案件が少なくないとされる。権益確保を焦るあまり、「ババ」もつかんでしまっているのだ。現在の油価が下落したら、中国の国有石油企業は、ひと頃、日本の石油公団が批判を受けた「赤字の山」に悩まされるかもしれない。

東シナ海のガス田にしても、領海問題を脇に置くとするならば、採掘コストも高く、魅力に欠ける。中国が日本に共同開発を持ちかけてきているのは、経済的に採算を取るため、日本を引きずり込もうという意図があるのではないか。

中国が中東以外の未開発の地で油田開発を進めるということは、中国の中東からの原油輸入の増大を抑えることにつながる。それは、日本が高い精製技術を使って、今後も割安な中東原油を利用できることを意味する。

中国は現在、原油輸入を抑制するために省エネも重要な政策目標としている。世界最高水準の省エネ技術を持つ日本は積極的に協力を申し出るべきだ。それで中国の原油消費を削減できれば、回りまわって日本の原油輸入の安定性の向上になる。そうした合理的なエネルギー戦略を日本は練るべきである。


2006年 8月29日


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