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The Asahi Shimbun Asia Network
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AAN発
アジアのエネルギー協力



エネルギー資源争奪症候群を問う(下)

存在感増すロシア


「資源大国」にもろさも

サハリンの冬場の海域は毎年、氷に閉ざされるが、アジア太平洋地域にとって有力な天然ガス供給源となる=「サハリン2」開発を進めるロイヤル・ダッチ・シェル提供

「天然ガスの価格はクレムリンが決めるのではない。市場が決めるのだ」

ロシアのプーチン大統領は議長を務めた7月の主要国首脳会議(G8サミット)での記者会見でこう説明した。今年初めのウクライナへの天然ガスの供給停止で西側メディアから張られた「エネルギー帝国主義」(英ガーディアン)といったレッテルに反論したものだ。

ロシアの石油、天然ガスの生産量はソ連崩壊に伴う混乱で激減したが、近年、西側技術の導入などで回復。いまや原油の生産量ではサウジアラビアに次ぎ、天然ガスの生産量では世界一という資源大国の地位を復活させた。

それだけに、ウクライナへの供給停止は世界に大きな衝撃を与え、米国からは「(エネルギー資源を)脅迫の道具に使っている」(チェイニー米副大統領)などと批判された。

もっとも、ロシアはその資源依存にもろさも抱える。04年だと輸出の5割強を原油やガスなどエネルギー資源関連が占め、歳入も資源関連が頼りだ。バブルとの指摘もある油価が急落すれば成長は望めない。

しかも、投資環境の悪さや政府の管理強化などで新規の油田開発は進んでいない。ロシア最大の産油地・西シベリアの既存油田の生産のピークがいつ来るのか、が世界のエネルギー関係者の関心を呼ぶ。

西側はロシアを実体以上に見ているのかもしれない。ウクライナへの供給停止にしても、エネルギー業界には「ロシアは欧州向けと同水準の輸出価格にしたかっただけ。米国こそ、ウクライナが自由主義圏入りしたのを好機と対立軸をつくりだそうとしている」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構の本村眞澄主席研究員)との見方がある。



EUは一体化して対応

資源大国ロシアとの付き合いには、それなりの体制づくりが必要だ。

「ひとつの声で表明される共通アプローチ」

欧州連合(EU)欧州委員会は3月、エネルギー問題の解決を図る共通政策のたたき台を発表、バローゾ委員長はこう強調した。

天然ガスの供給をロシアに大きく依存するEUとして、ロシアなどの供給国に対しては一体となって行動すると宣言したのだ。

EUとして供給源多様化のためにカスピ海沿岸の天然ガスをトルコや東欧、オーストリアまで運ぶパイプライン建設を後押しする。一方で当のロシアからドイツ、英国への天然ガスパイプライン計画も粛々と進んでいる。

EUの起源は、52年設立の欧州石炭鉄鋼共同体だ。フランスとドイツの国境付近の鉄鉱石や石炭という資源が戦争の原因になったため、それを共同管理に委ねたのだった。

旧ソ連諸国との間でもEUが中心になって94年にエネルギー取引の共通ルールとなるエネルギー憲章条約に合意。原署名国ロシアは批准を拒んでいるものの、「国内法に矛盾しない限り、従わなければならない」(エネルギー憲章事務局・金井実治エコノミスト)とされる。

安定供給のための「首輪」をロシアにつないだ格好だ。



日中では「争奪戦」

ロシアの存在感はいま、アジアで増している。すでにアジアのエネルギー需給の将来像はロシア抜きには語れなくなっているといっていい。

サハリン沖で進む大規模な原油・天然ガス開発の2大プロジェクトのうちの「サハリン2」は、08年の液化天然ガス(LNG)の出荷に向け、日本の電力、ガス会社との契約が次々結ばれてきた。

発表されただけでも最低で年間500万トン弱に達し、これだけで日本のLNGの総輸入量約5800万トン(05年)の1割弱を賄う計算だ。もうひとつの「サハリン1」も日本などへの天然ガス輸出を目指している。

建設が始まった東シベリアからのパイプラインでは年間8千万トンの原油を中国・太平洋岸に送りだす。埋蔵量を疑問視する声はあるが、実現すれば、日本の原油輸入量約2億1千万トン(同)に照らしてもアジアのエネルギー需給を一変させるのは間違いない。

ロシア政府も、03年8月に採択した「ロシア2020年までのエネルギー戦略」で、サハリンや東シベリアでの生産増、つまりアジアへの資源販売に頼らざるをえないことを明らかにしている。

しかし、アジアにはEUのような消費国の連携がない。東シベリアからのパイプラインをめぐっては日中が「争奪戦」まで演じている。「結局、中国と競争させられて、日本の負担が増すばかり」との懸念が、日本のエネルギー業界には強い。(アジアネットワーク主査・小森敦司)



消費国の連携不可欠


伊藤 庄一氏
環日本海経済研究所研究員
AAN客員研究員

69年生まれ。在ハバロフスク総領事館専門調査員を経て、04年から環日本海経済研究所調査研究部研究員。専門はロシアのエネルギー経済と政治外交。共著に「ロシア・CISの資源戦略」など。

ロシアは、いずれ見込まれる西シベリアの原油や天然ガスの減産を東シベリアで補っていく必要がある。

ところが、その東シベリアの埋蔵量はあいまいなままで、外国の投資家にとって安心できる法的枠組みや投資スキームも未完成だ。そもそも東シベリアの永久凍土地帯の奥深く眠る鉱床の開発がビジネスとして採算が取れるのかも疑わしい。

一方、ロシアにとっては、東シベリア産原油の購入者を多角化するために、パイプラインを中国向けだけでなく、太平洋側まで建設する必要がある。これはロシアにとって選択の余地がない。

しかし、日本ではそうした状況の整理を抜きにして、東シベリアからのパイプラインをめぐり中国との「ゼロ・サム」ゲームが必至、との解釈が広まっている。

そもそも日本にとってこれは急ぐべき課題なのだろうか。日本は人口減少などで米国や中国とは違って今後、エネルギー消費が頭打ちになることが予想される。中国とてんびんにかけられて焦ったすえ、日本一国で過大な財政負担や投資リスクを背負ってしまうのは、それこそ笑い話だ。

だからこそ、いま、日本に問われているのが消費国の連携なのだ。7月の日ロ首脳会談で、プーチン大統領はこの件では国家保証をつけず、商業ベースで行うと強調した。

ロシアがそう言うのであれば、日本は民間投資家が安心して進出できるような公明正大な投資条件が示されることを、東シベリア開発に関心を示す中国や韓国、インドと歩調を合わせてロシアに要求するべきなのだ。この時、米国との協力も不可欠だ。

さらにロシアに対しては、日中などの分裂を狙ってくさびを打ち込み、自国の利益を極大化させるという発想は、結局、東シベリア開発を急ぎたいロシアにとっても利益とならない、と言うべきだろう。


2006年 8月30日


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