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日本外交再生のシナリオ


天児 慧
早稲田大学教授

早大大学院アジア太平洋研究科長。朝日新聞アジアネットワーク委員。近著に「中国・アジア・日本」。

膠着(こうちゃく)し、閉塞(へいそく)していた日本外交に一筋の陽光が差し込み始めた。安倍新首相の中国・韓国の訪問である。

私はあるテレビ局の番組で「日本外交の久々のクリーン・ヒット」と評した。もちろんこれは日本外交の新たな展開の第一歩であって、それ以上ではない。また安倍首相の「靖国参拝あいまい戦略」と歴史認識の危うさを引きずっていることも間違いない。しかし首相就任前から「アジア外交の立て直し」に意欲的な発言をしていたこと、安倍政権を支える自民党幹部や外務省幹部らが政権誕生以前から対中関係改善のために水面下で布石を打っていたこと、そして何よりも自らの歴史認識や靖国観を封印してまで首脳会談実現に踏み切ったことを併せ考えるならば、新首相の対中、対韓関係改善は本気であると見ていいだろう。

私は日本外交再生の最大のカギはアジア外交にあると見ている。米国との良好な関係維持は何も日米同盟最重視論者の専売特許ではなく、日本外交の大前提である。それを踏まえてわが国を取り巻く全体状況を見渡すなら、アジアにこそ多くの重大な懸案事項がある。それらを適切に処理することで日本の外交的プレゼンスは回復し、米国がアジアにおける日本の役割を見直すことにもつながる。

直面する最大の問題は北朝鮮の核と拉致問題である。北は核と拉致の分離を図るために「日本外し」の揺さぶりをかけてきた。ここは日本あるいは日米だけが突出する状況は避け、韓国、中国、ロシアをも含めた「共同制裁」の実現に踏み込むしかない。だが、中長期的に見れば日本の役割は重要だ。北の急激な崩壊は部分的な軍事衝突や大量難民の発生を招きかねず、東アジアに極めて大きな混乱をもたらす。これを避けるためには北の国際社会への取り込み、一定の民主化を促さねばならず、そのためには市場化へのソフトランディング、経済復興がカギとなる。

わが国の重要課題の一つに日朝国交正常化があるが、これを視野に入れた大規模な経済支援策を6者協議のシナリオの中に組み込むことである。恐らく米中韓に歓迎され、北を説得する有力な梃子(てこ)になるだろう。鞭(むち)だけで問題は解決しない。

もう一つのアジア外交の課題は、言うまでもなく「台頭中国」に対する認識と戦略である。

中国の脅威と反中国を煽(あお)り立てる人たちは期待感を含め、「強大化する中国はいずれ米国と対決する」「米国も反中国を鮮明にしていく」と想定しているようだ。もちろん、その可能性がないとは言えない。しかし私の見るところ、中国は部分的対立はともかく、長期的な基本戦略として米中対決は選択しない。いや米国との同盟関係を目指す可能性さえある。中国がアジアにおける問題処理能力を高め実績をつくるなら、米国もまた米中基軸を選択する可能性はある。日本が特別なプレゼンスを持たないまま、こうした状況が生まれるなら、本当にただの「普通の国」になってしまう。

日本はこうした見通しを逆手にとり、かつ韓国としっかり連携しつつ、日韓中米の4カ国安全保障協力の制度化、さらには豪州なども加えた「太平洋条約機構(PATO)」の構想を提唱すべきではないか。21世紀の安全保障は、1国ないし2国の覇権的な秩序やバンドワゴン的秩序によるのでは問題が多い。経済と同様に、対話と国際ルールの強化を通した相互協力、相互牽制(けんせい)・抑制が機能する協調的安全保障の制度化こそが重要なのであり、日本はこの面で主導的役割を果たすことを最大の外交課題とすべきなのである。

テロや海賊、感染症や環境汚染など越境性が高く緊急対応を要する課題も少なくない。これらも視野に入れ、問題解決型フレームを構築することが重要だ。そして、こうした取り組みをリードするには、近隣諸国との信頼関係を高めていくことが何より欠かせないのである。

2006年11月15日


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