4年後、中国ワースト1
あと4年で中国が米国を追い抜く――。今月7日、国際エネルギー機関(IEA)が発表したエネルギー消費にともなうCO2排出量の将来予測は、温暖化問題にかかわる世界中の人々を驚かせた。米国と肩を並べるのは2020年ごろとされてきたのに、10年にワースト1になるという。
IEAによるとCO2排出量は、04年の261億トンから30年には404億トンに増え、特に中国は2.2倍に。増加分の4割が中国からになる。他のアジアの途上国の伸びも著しい=表。
一方で1人当たりの排出量では04年時点で中国は米国の5分の1以下に過ぎず、30年時点でも3分の1程度。インドはさらに少ない。京都議定書が08〜12年に排出する温室効果ガスの削減を先進国だけに求め、途上国にはその義務がないのは、「エネルギー消費の削減は貧困解消や発展の妨げ」という途上国側の主張が背景にある。
だが、13年以降の削減ルールでは、欧州や日本も対途上国の努力を盛り込むことを要求、17日までケニアの首都ナイロビで開かれた国連気候変動枠組み条約第12回締約国会議では「途上国の排出大国も何らかの責任を果たすべきだ」と迫った。
これに対し、中国などは交渉のテーブルにつくことすら渋った。絶好調の経済成長に水を差すような規制を避けようとしている。
成長にかすむ省エネ努力
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なだらかな草原に立ち並ぶ風力発電。現在の総容量は10万キロワットほどだが、将来的にはここ1カ所で原発1基分を超える120万キロワットまで増やす計画があるという=中国
・内モンゴル自治区の輝騰錫勒草原で、森治文撮影 |
中国やインドもCO2の排出増にただ目をつぶっているわけではない。エネルギー確保や原油の高値などもあって積極的に再生可能エネルギーの導入などに取り組む。
内モンゴルの輝騰錫勒(ホイタンシル)草原。中国有数の風力発電基地には100基以上が吹きすさぶ風を受けながら整然と立ち並ぶ。周りには建設を待つ支柱や発電機が横たわり、「数年で300基になる」と地元関係者はいう。
中国の風力発電の容量は00年の約34万キロワットから昨年は127万キロワットに増え、日本を追い抜いた。今年中には200万キロワットに達する。
中国は風力を軸に再生可能エネルギーの割合を10年に1次エネルギーの10%、20年に16%に引き上げるという目標を掲げる。今秋来日した呉貴輝・国家発展改革委員会能源局副局長は「昨年時点で7.5%に達した」と自信をみせる。原子力発電の増設にも積極的だ。
風力では中国を上回るのがインドだ。さらに独立した新・再生可能エネルギー省を設けて、豊富にある家畜のふんや草木などを利用したバイオマス発電に力を入れる。
野心的にも見える両国の取り組みで、CO2の増加をわずかに鈍らせることはできたが、減少に向かわせるには至っていない。
中国は今年からの第11次5カ年計画でエネルギー効率の20%向上を目指し、企業に省エネ設備の導入を働きかける。しかし、ある発電関係者は「増産すれば利益が出る時にエネルギーの節約に投資する企業は少ない」と目標達成に懐疑的だ。
先進国が技術支援、日本企業にも期待
途上国がそんな袋小路から抜け出すには、先進国が支援する必要がある。再生可能エネルギーの普及や省エネをもっと大胆に推し進めるには、技術と資金が不可欠だからだ。
今年5月、中国とスペインの合弁会社が江蘇省で風力発電製造工場を設立した。中国ではまだ珍しい1.5メガワットの大型機をつくる技術を導入、生産能力は年400基に上る。幹部の一人は「優れた技術を生かして有望な中国市場でシェアを増やしたい」という。他の欧州の風力発電機メーカーも次々と中国に工場を建て、量産体制を整える。清華大で中国の再生可能エネルギー政策を研究する米国人のエリック・マーティノット客員研究員は「競争が好循環を生み、風力発電が政府の考えている以上に伸びる可能性がある」とみる。
省エネの分野では日本の技術への期待が大きい。その象徴が製鉄所のコークス乾式消火設備(CDQ)だ。
製鉄に必要なコークスを冷やす際、水の代わりに不活性ガスを使うことで熱を回収し発電、エネルギー効率を改善させる仕組み。欧米にはない技術で、日本からの技術移転によって中国の大手製鉄会社のコークス炉にかなり導入されてきた。
しかし、その他の技術協力はそれほど進んでいない。技術がコピーされることを恐れて、日本企業が二の足を踏むことが多いためという。
温暖化対策にくわしい国際協力銀行特命審議役の本郷尚さんは「CO2の削減は国に関係なく地球全体で取り組むもの。障害を乗り越えられれば多くの技術が海外で活躍できる」と訴える。
「共通責任」考え、自主目標を
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李 志東(リ・ジュドン)さん
長岡技術科学大助教授 AAN客員研究員
 | 62年、中国・山東省生まれ。京都大学大学院に留学、95年から長岡技術科学大学経営情報系助教授。日本エネルギー経済研究所客員研究員も兼任。専門はエネルギー・環境経済学。著書に「中国の環境保護システム」など。 |
97年に採択された京都議定書は、温暖化問題に対する先進国と途上国の責任を「共通だが差異ある」とし、先進国が率先して温室効果ガスを減らすことを定めた。その議定書から離脱した米国と同様に途上国は温暖化防止に後ろ向きと見られがちだが、途上国には削減義務がない。この点で米国とは立場が異なる。
しかし、9年がたち中国やインドの排出量の急増ぶりがはっきりした。「共通の責任」を念頭に、減らすとは言わないまでも増加をどこまで抑えるかなど自主的な目標を定める時がきたと考えるべきだろう。
中国が今年からの5カ年計画で省エネ最優先の戦略を打ち出し、エネルギー効率の20%改善を目標に掲げたのは、その第一歩と言っていい。4月には小型自動車の優遇税制を創設、省エネ1000社行動計画を5月に始動させるなど、従来にない速さで具体策を次々と展開している。
01〜05年の5カ年計画でもエネルギー消費の年平均伸び率を4%程度に抑えるとしていたが、実際は10%伸びた。目標が期待値に過ぎず、具体策に欠けていたからだ。今回は拘束力のある数字として明記された。
目標実現には日本の省エネ技術が期待される。知的所有権の問題や設備が割高なこと、人材育成や現地でも使える仕様への変更など課題は多いが、双方の努力で克服してほしい。目標が達成されたとき、次は省エネと連動してGDP(国内総生産)の単位当たりの排出量抑制など数値目標を立てることが望まれる。
私の試算では、日本の約7割でしかない中国のエネルギー利用効率が日本に追いつけば、日本の年間CO2排出量の1.3倍も減らせる。日本が1年間に使う化石燃料を節約でき、エネルギー供給の安定化にもつながる。
省エネや再生可能エネルギー開発は経済成長の足かせにならない。むしろ成長をはばむエネルギー問題や大気汚染問題の解決との両立も図れる。将来振り返ったとき、決して後悔しないはずだ。
2006年11月21日
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