中国 爆発的な車熱:石油需要に地方も走る
 | 「北京国際モーターショー」のメディア向け先行公開=同18日、北京で、越田省吾撮影
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火が付いた中国のモータリゼーションは止まらない。上海市の「過熱」を見た。
市公務員の呉艶さん(26)は近く日産自動車の小型車「ティーダ」を買うつもりだ。親から譲られた中国車から換える。
「友達もみな、新車に乗り換えている。高い生活水準を実感したいじゃない」
予算は15万元(約225万円)。市は台数抑制のためナンバープレート取得を入札にかけるが、その費用も5万元(約75万円)近く。約3000元(約4万5000円)の月給では本当は維持費だけで精いっぱいだ。でも、欲しい。「一人っ子政策」の第1世代。親に甘えるつもりだ。
年明けに出産予定の呉沁沁さん(30)も、買い物や保育園への送迎用にと、夫の通勤用の車とは別に新車を買うことを相談中だ。「地下鉄やバスもあるけど、子供を抱えてだから、やっぱり自分の車が欲しい」。隣の浙江省でのナンバープレート取得も考えている。ディーラーが代行してくれるのだ。
渋滞や大気汚染の悪化を阻もうと、上海市をはじめ大都市は様々な抑制策をとるが、あまりのマイカー熱に手を焼いている。05年の中国の自動車販売は575万台とすでに世界2位の日本と肩を並べる。
こんな急拡大するガソリンなどの石油製品需要が中央、地方、石油会社を走らせる。
「成長」追って
 | 建設が進む大型製油所=11月21日、青島で、五十川写す |
黄海・膠州湾に面した山東省青島市の海浜工業地帯。急ピッチで整地される広大な土地に、石油タンクなどの下地が姿を見せ始めた。国有大手石油3社の一つ、中国石油化工(シノペック)グループの製油所だ。08年までに完成の予定。年1000万トンの原油を処理する。その原油はサウジアラビア国有のサウジ・アラムコが供給する見込みだ。
「青島製油所の25%の権益をアラムコに売却へ」――11月下旬、経済紙が伝えた。アラムコは中国のガソリンスタンド市場への参入も許可されたとの観測もある。原油を「持参」する国には、そんな「甘い水」も用意している。
地元・青島市にとっては長期成長を約束する礎になる。様々な石油化学関連産業の育成が見込めるからだ。青島市発展改革委員会の章群・発展計画課長は「今後5年間、平均13%の成長率を目指したい」。鼻息は荒い。
こんな伸び盛りのエネルギー関連産業を、地方は欲しくてたまらない。中央政府が打ち出した液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地整備には一時、青島を含め数十カ所が名乗り出るフィーバーぶりを見せた。
それが最近では、LNG価格の上昇で買い手の電力会社が購入に後ろ向きになったとされ、「実現するのは2割ぐらいではないか」(中国のエネルギー専門家)との見方も出始めている。
発電所も建設続々
進出日系企業も巻き込まれた停電騒ぎも一変。いまや発電所建設ラッシュといった状況だ。
「わずか3年で1兆元(約15兆円)とは。それでできた1億5500万キロワットは、日本の発電能力の6割弱にもなる」
中国のエネルギー事情に詳しいアジア経済研究所の堀井伸浩研究員(アジアネットワーク客員研究員)は最近、03年から05年までの中国全土の発電所の建設費と、それで増えた設備容量を積算して驚いた。
電力不足解消を、と中央政府が02年に建設規制を緩めた結果、地方政府がどっと発電所に群がったのだ。
「新豊発電所違法建設事件」。一つのニュースが地方当局の間を駆けめぐった。温家宝(ウェンチアパオ)首相が今年8月、内モンゴル自治区で違法に建設を進めていた同発電所について、直々に差し止めを指示し、同自治区のトップ3人を処分した。
同自治区は、石炭火力を中心にした炭鉱や非鉄精錬工場への膨大な投資をテコに、03年から3年連続で地域別成長率トップを維持、経済規模はこの3年間で倍になった。事件は、エネルギーを核に成長戦略を描く地方に向け、中央が急ブレーキを踏んだことを一罰百戒的に示したのだった。
ただ、堀井氏は「走り出した地方政府には、いまのエネルギー投資ブームに乗ることこそ成長への近道との思いこみがある。まるで熱病。中央の『節約型社会』実現というスローガンはなかなか耳に届かないだろう」とみる。
「脅威論」意識
「石油輸入のため、との見方は間違っている」
今年6月、温家宝首相のアフリカ歴訪の説明で、中国外務省の何亜非次官補は「資源外交」との見方を真っ向から否定した。
エネルギー資源獲得をめぐる中国「脅威論」は国際社会では高まるばかりだが、中国自身、それを気にし始めたのかもしれない。
さかのぼると今年4月、胡錦涛(フーチンタオ)国家主席はサウジ訪問を前に訪米、エール大学で「中国は平和的発展の道を歩む」と強調している。注入を始めたとみられる原油備蓄も関係者の間では「市場への影響を小さくしようと、中国は情報流出に細心の注意を払っている」とされる。
エネルギーを使った豊かさへの個人や地方の欲求の制御と、それを満たすためのエネルギーの手当て。国際社会との共存や環境問題を含め、複雑な連立方程式の解を探さねばならない。その姿は日本の高度成長期ともだぶる。(山口博敬、論説委員・五十川倫義)
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中国をはじめ、アジアのエネルギー消費の拡大が続いている。供給懸念が高まる一方で、その市場に食い込もうとする企業の動きも速い。ロシアなど大陸からの新たな資源の流れにも注目が集まる。激変するアジアのエネルギー事情を4回にわたり追う。
2006年12月13日
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