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アジアエネルギー最前線(4)

安定へ連携の芽:ASEANガス網構想


バンコク市内の液化石油ガス(LPG)スタンドには、タクシーだけでなくマイカーも並ぶ=小森写す

急激な油価高騰が、東南アジア諸国の庶民に節約生活を強いている。

「これで月々5000バーツ(約1万7000円)だった通勤費を2000バーツに減らすことができた」。タイ・バンコク市内の液化石油ガス(LPG)スタンド。LPG仕様のマイカーを満タンにした会社員(44)が喜ぶ。

同国では高くなったガソリンを嫌ってLPG仕様への改造が流行。LPGスタンドには改造したマイカーがタクシーとほぼ同じ割合で並ぶ。石油の多くを海外に頼るだけに、政府も夜間の広告塔の使用制限など省エネに取り組んできた。


輸入国に転落

インドネシア・ジャカルタでは、家庭用コンロの燃料に使う灯油が値上がりし、販売店の前で主婦らがため息をつく。通勤でも、高いガソリン代を節約しようとマイカーから乗り換えたスクーター族が増加。中心部のガソリンスタンドの店員は「ガソリン販売量が1割は減った」。

日本が資源供給源として頼る同国も投資低迷などから04年に原油の純輸入国に転落、石油製品を補助金で安くしておくことができなくなった。

石油の海外輸入依存度が高いフィリピンも電気料金やバス運賃を引き上げた。産油国ベトナムも精製能力不足で石油製品を輸入するため、ガソリン価格の値上げに追い込まれている。

そんななか、東南アジア諸国連合(ASEAN)が、地道に域内のエネルギー協力を進めていることは、日本ではあまり知られていない。

「ガスはもうマレーシアのパイプライン網を流れています」(マレーシア国営石油会社ペトロナスの広報担当者)。かつてタイとマレーシアが領有権を巡り争った水域で共同開発された天然ガスが今年2月、パイプラインでタイ南部を経由し、マレーシアとの国境を越えた。LPGに加工され、自動車燃料にも使われる。


有効利用狙い

ガス・パイプライン網をASEAN域内に張り巡らす「トランス・アセアン・ガスパイプライン(TAGP)」構想の一つ。域内に豊富な天然ガスを域内で有効利用するのが狙いだ。

推進するのがクアラルンプールのペトロナスツインタワー内に事務局を置くASCOPE(アセアン石油評議会)だ。調整役を担ってきたファリド・モハメッド・アミン博士は、パソコン画面のTAGP計画図を指先でなぞった。「完成に100年かかるかもしれない。でも、我々は信頼しあっているし、油価が高騰している今こそ、代替供給源を増す努力が必要だ」

排ガスでモヤがかかるジャカルタ市中心部には、省エネ協力などを進めるACE(アセアン・センター・フォー・エナジー)の本部ビルがある。いま、石油市場が混乱した際に域内産油国が域内消費国に石油を優先的に供給する協定「APSA」の改定を急いでいる。

実効性が乏しいとの指摘が出ていたのに加え、インドネシアが原油輸入国に転落したという環境変化もあった。ウィラワット・チャンタナコム事務局長は取材に対し、「備蓄も我々の戦術の一つになるべきだと考えている」と語った。



備蓄協力、中印に秋波

「中国の備蓄のキーパーソンはもう頭の中に入っている。(供給途絶といった)いざという時のホットラインも中国との間にはできている」

73年の第1次石油危機を機に産油国対策を練るためにつくられた国際エネルギー機関(IEA、本部・パリ)。大隅洋アジア太平洋・ラテンアメリカ課長は、中国などアジアの非加盟国を飛び回っている。持ち歩く中国の地図はもう、ぼろぼろだ。

石油消費を増やす中国やインド、ASEANが備蓄に取り組み始めたため、IEAとして秋波を送っているのだ。実は危機感の裏返しでもある。

というのも、加盟先進国の石油消費量は70年代初頭だと世界全体の約70%を占めたが、30年には50%を切る見込み。伝家の宝刀である備蓄取り崩しも、中国、インド、ASEANといった非加盟の国・地域との連携抜きでは効果が期待できないのだ。

この10月末には中国の備蓄基地への原油注入という機会をとらえて、中国の国家発展改革委員会と石油安全保障に関する共同ワークショップを北京で開いた。

「中国は国際機関や世界各国との対話を強化し、世界のエネルギーの安全と安定を維持するために協力する」。席上、国家発展改革委員会の陳徳銘副主任は国際社会との協調姿勢を強調した。

大隅課長は「中国もIEAとの協力が自分たちの利益になると本当に理解し始めた」と手応えを感じている。

中東で何かコトが起きれば、石油市場の混乱は、ロンドンやニューヨーク、東京、そしてアジア全域へとすぐに波及する。取るか取られるかのゼロサム思考ではしのげない「市場の一体化」が両者の連携を加速していた。IEAは来年、インド、ASEANとも同様のワークショップを開く方針だ。

アジアの内と外。協力関係をつくるための様々な取り組みが続いている。
(小森敦司)=おわり

2006年12月16日


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