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韓日、大衆文化交流の重み


孔 魯明
韓国元外相

駐ロ、駐日大使、外相を歴任。日韓フォーラム韓国側議長。朝日新聞アジアネットワーク会長。74歳。

日本で「韓流」という言葉が耳目を引いて数年になる。以前にも、94年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭での「風の丘を越えて――西便制」の上映、「シュリ」(日本公開00年)、「共同警備区域JSA」(同01年)など韓国映画が日本で100万人を超す観客を動員したといわれるが、現在のブームは、NHKが03年に放送した「冬のソナタ」が発端だろう。以来「宮廷女官チャングムの誓い」など韓国のドラマが日本のテレビで放映されている。

「ソフトパワー」論で有名なハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は、大衆文化を軽く見てはいけないという。ポップカルチャーは、政治的に重大な影響を及ぼす価値観へのイメージやメッセージなどを、無意識で発信することが多いという。韓国の食べ物といえば焼き肉かコムタンぐらいと思っていた多くの日本人が「チャングムの誓い」以来、韓国の宮廷料理に興味を持つようになったことはその好例である。

私は駐日大使時代の94年、韓国メディアとの懇談会で、45年の解放から半世紀がたっていることを考え、そろそろ日本の大衆文化に門戸を開くことを考えてもいいのではないかと発言した。韓国内でその賛否をめぐり大きな議論が起き、韓国政府と与党は、発言内容は政府の立場ではないとした。しかし、映画やCDの輸入で直接的影響を受ける文化界の代表的立場にいた人々は、日本の大衆文化の開放は強制的に阻止できるものではなく、備えるべきであるとの立場にいたことが記憶に残る。

韓流現象を研究している京都大の小倉紀蔵氏は、ブームの背景には「ポストモダン」時代に入った日本社会内で起きている「モダン」時代への懐古があるといい、単に韓国ドラマや俳優に対する一般的なブームではなく日本社会の大きな転換点を示す現象でもあるという。韓国大衆文化が東アジアに発信され、そのコンテンツの何かが日本人の心の琴線に触れ、中国人の涙を誘い、また東南アジアの人々の興味を引くものがあるゆえにブームを起こしたといえる。

韓国内での日流の主役は、少年少女層におけるアニメはさておき、小説だという。書店での売れ行きが急伸し、ソウル大、高麗大、西江大などの有名大学の図書館での貸し出し総合順位20位以内に日本人作家の作品が8冊も入っている。江國香織、よしもとばなな、村上春樹、綿矢りさの諸氏の作品だ。韓流が日本の中高年層に広く受け入れられていることに比べ、日流は次代を担う韓国の若い女性の心情に広く受け入れられている。

昨年、島根県の「竹島の日」の制定で両国関係がギクシャクした中でも、国交正常化40周年を迎えて企画された「韓日友情の年」のための700余件の文化イベントのほとんどが実施されたことは注目に値する。

いま、日本から韓国への旅行者数は年間約244万人(昨年)、韓国から日本へは175万人(同)にのぼる。韓流・日流などを含めその他の民間交流がたゆみなく行われたとき、政治的または政府間の関係が悪化し対立・葛藤(かっとう)することがあっても、そうした葛藤を吸収できる体力が出来ると思う。

互いに必要なパートナーであるという国民的認識があるときには、政治レベルにおいても問題を合理的かつ理性的に解決しなければならないという世論の重みが作動するのだ。

文化交流増進において依然として問題なのは、いかにして自国内の排他的ナショナリズムを克服し、それを国際協調的な健全なナショナリズムに昇華させるかである。過去の歴史の傷跡を背負っている東アジアの人々が共同の繁栄と平和のために構築していくべき共同体づくりには、過去の加害者はいっそう謙虚な姿勢をとり、被害者は寛容の心を持って互いに接することがなによりも必要である。今の「韓流」や「日流」がそのような目的に肯定的な貢献をなすものであることに異論はない。

2006年12月20日


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