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AAN発
温暖化防止

「きれいな石炭」協力急げ


石炭を燃やして出る二酸化炭素(CO2)を減らす技術「クリーン・コール・テクノロジー」(CCT)が、世界的に注目されている。なかでもインドや中国など石油資源に乏しいアジアでは、経済成長とともに安価で自国に豊富にある石炭の利用が急増しており、省エネにもつながるCCTの導入が、温暖化防止とエネルギー確保の両面から望ましい。15日の東アジアサミットで安倍首相が省エネ支援を表明した日本は、優れた技術でこれらの国々に積極的に協力すべきだ。 (小渋晴子、森治文)

◆キーワード
<クリーン・コール・テクノロジー(CCT)>
地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)をはじめ、酸性雨をもたらす硫黄酸化物や窒素酸化物の低減など、石炭の利用にともなう環境負荷を抑える技術の総称。脱硫装置もその一つ。燃焼効率をあげる技術は、石炭の少量化を図れることからCO2のほか複数の汚染物質の削減になる。
粉末にして燃やす「微粉炭発電」、高温高圧の「超々臨界圧発電」など日本ではすでに幅広い技術が実用化されている。開発途上の技術には、ガスタービンと蒸気タービンの両方を回して効率をあげる「石炭ガス化複合発電」や、発電所から出たCO2を回収、地中などに埋める「炭素隔離・貯留」などがある。


温暖化防止へ期待のアジア


増す需要 技術でCO2減

炭鉱から掘り出された「原炭」を満載した貨車の列。先頭が見えないほど続いていた=06年11月、インド・ジャルカンド州の石炭工場で小渋写す

石炭の産出がインド最大の東部ジャルカンド州。州都と60キロ離れた農村部の石炭工場では、炭鉱から運び込まれた石炭が次々ベルトコンベヤーで水槽に放りこまれる。

波立たせた水の中で速く沈む石炭ほど不燃物の灰分が多い。発電所で燃やしても効率が悪いため比重を利用して取り除くのが目的。CCTの一つで選炭という工程だ。

「波の動きで沈み具合をもっと制御すれば、良質の石炭を選ぶ精度が高まる」。日本の進んだ技術を入れようと昨秋、現地を訪れた財団法人石炭エネルギーセンターの遠藤一・担当部長はいう。

インドで採掘される石炭は、灰分を含む割合が多い。輸送効率や環境面を考えて、政府は5年前から選炭の強化に乗り出した。仮に灰分を完全に取り除けば、CO2の排出量を1割減らすのも可能といわれる。

石炭は、同じ量のエネルギーを得る際に排出するCO2が石油の1.3倍、天然ガスの1.6倍とされ、温暖化防止にはやっかいな存在だ。しかし、確認埋蔵量は石油の約40年分、天然ガスの65年分に対し、155年分に上るという。

アジアは石油を輸入に頼る一方、石炭は自国に豊富にあり、安くて今後の経済成長を支える主要なエネルギー資源とみられる。国際エネルギー機関(IEA)によると、2030年の石炭需要は04年から33億トン増え、その4分の3は中国とインドが占める=グラフ。そこでCCTによる省エネでCO2を減らすことが温暖化防止のカギを握る。


国あげて発電効率アップ

首都ニューデリーで昨秋あった石炭関連のワークショップでインド科学技術省が配布した報告書は「CCT導入を直ちに」と提言した。途上国にCO2削減の義務はないが、世界的な温暖化防止の流れは無視できない。大幅に増えてからダイエットを求められるより、今から絞っておいた方が得策との意図がうかがえる。

CCTで省資源化を図れるという期待もある。

インドは増えるエネルギー需要に石炭の生産が追いつかず、輸入が少しずつ増えている。原因の一つが日本の6割強とされる発電効率の悪さだ。

そこで政府は、CCTによって発電用タービンを回すための蒸気を高温高圧化し、効率アップを図ろうとしている。今は日本の2世代前の性能が中心だが、来年には1世代前の発電所が初めて完成。増設も計画中だ。

石炭にエネルギーを頼る事情は中国も同じ。07年春には日本製の最新鋭の高温高圧タービンを採り入れた発電所の第一号が稼働する予定だ。米国や日本などが近い将来の実用化をめざして開発を競う次世代火力発電の研究も進めている。実現すればCO2排出量を石油火力並みに減らせるという。



支援に「秘密保持」の壁

日本は世界一の輸入量という石炭で電力需要の4分の1をまかなう。一方で、石炭が原因のCO2は国全体の排出量の3分の1を超える。このため、発電所の燃焼効率の向上など最先端のCCT開発が続けられている。

ただし、国内では石炭火力発電所が老朽化すれば、CO2の少ない液化天然ガスに取って代わるのが時代の流れで、ある電力会社の担当者は「省エネが進んだ日本よりアジアなどの途上国の方がCCTの温暖化防止への貢献度合いも大きい」と海外に熱い視線を送る。

中国で新設される石炭火力発電所に日本の先端技術が入れば2030年には、導入されなかった場合より年間で3億4000万トンのCO2を削減できるという試算もある。05年度の日本のCO2排出量の3割弱にあたる。

15日フィリピンであった東アジアサミットで安倍首相も石炭火力発電の効率化などCCT分野の支援を打ち出した。

しかし、これまでは実際の協力となると、途上国側に勝手に技術をコピーされることを恐れて尻込みしがちという。ある石炭関係者は「欧米企業はコピーなどの損失も計算ずくで日本企業よりも一見高い金額の契約を結ぶ。でも、途上国側は知的財産権など権利関係を厳しく縛られる日本とくらべて結果的には安上がりとみる」と解説する。すでに普及が進んだ技術でも、日本は人件費などの安い外国企業に価格競争で負けるという。

インドの発電メーカーの技術者は、日本が開発中の技術について、秘密保持を理由に基礎的な資料の提供さえ拒まれた。「日本は技術協力をする気があるのか」との不満が途上国側から漏れる。

日本の石炭関係者や企業の生き残り策としてのCCTでなく、将来の地球環境とエネルギーを見据えた真の協力が求められている。



最先端分野で勝る日本、中国で広く展開を


堀井 伸浩さん
アジア経済研究所研究員
AAN客員研究員

経済成長の伸びが著しい中国では近年、石炭依存が再び強まる傾向にある。原油輸入の急増ぶりが世界的な関心を集めているが、05年の輸入量を石炭に換算すれば2億5000万トンで、同年の石炭消費量の12%程度にすぎない。エネルギーの7割をまかない、輸入に頼らずに済む石炭は欠かせない資源だ。

一方で、2010年までに中国の二酸化炭素(CO2)排出量が米国を抜いて世界一になるとの試算が最近、国際エネルギー機関(IEA)から出た。火力発電所などでの石炭の燃焼が主な原因だ。しかし、それ以上に石炭がひき起こしている深刻な問題は、硫黄酸化物(SOX)による大気汚染だ。かつての日本の公害のような健康被害が起き、対策は急務だ。

私が中国政府関係者と話した経験では、みな温暖化対策を名目にした外国からの協力受け入れに慎重だった。エネルギー利用に制約が課されるのを嫌うためだ。ところがCCTに限れば、石炭の利用効率が上がって省エネになり、同時にSOXも削減できる。国際社会の要請である温暖化防止と国内の公害解消の一石二鳥がねらえるわけで中国の期待は大きい。

中国にもそれなりの技術の蓄積があるが、最先端の分野では日本が上だ。日本は石炭の消費量が中国の10分の1以下しかない国内だけでCCTを利用しても、効用は限られる。せっかくの技術を日本は中国で幅広く展開するべきだ。それにはCO2に限らず、SOX削減を含めたCCTの総合的なメリットを訴えることが重要である。温暖化防止の国際的な取り組みに中国を引き込むテコにもなる。

万が一、中国の主要エネルギーが石炭から石油や天然ガスに転換するようなことがあれば、国際マーケットが受ける影響は計り知れない。CCTによって中国の石炭利用を支援することは、日本のエネルギー安全保障にも寄与することなのである。


2007年1月16日


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