現在位置 : asahi.com > 国際 > AAN ここから本文エリア

The Asahi Shimbun Asia Network
 ホーム | 一線から | コラム | アジア人記者の目 | AAN発 | 書評 | リンク | English
AAN発
脱温暖化社会へ:アジアの最前線から5

燃料電池車:目指せ中国版カローラ



燃料電池車「超越―栄威」のバッテリーの具合を調べる研究者や学生たち=中国・上海の同済大学嘉定キャンパスで、樫山晃生撮影

上海郊外にある同済大学嘉定キャンパス。緑に囲まれた広大な敷地の中を昨年12月13日、銀色に輝く1台の車が時速150キロで駆け抜けた。

中国が国をあげて開発を進める燃料電池車「超越―栄威」のお披露目である。スタートから時速100キロに達するまでの時間は前身の「超越3号」の19秒から15秒へ、連続走行距離も260キロから300キロに延びた。

現場責任者で同済大学新エネルギー自動車工学センターの馬建新副主任(52)は「日本など先行開発国と肩を並べる水準に来た」と謙虚に話す。

嘉定キャンパスのある国際自動車シティーは、政府が01年から建設を進める自動車産業の一大拠点だ。約68平方キロのシティーには生産、修理工場やショールーム、さらにはフォーミュラワン(F1)のサーキット場までがそろう。嘉定キャンパスも01年に開設され、二酸化炭素を出さない「未来のエコカー」づくりに向けた頭脳が結集する。

          *             *

馬さんが自信を深めたのは昨年6月。パリで開かれたタイヤメーカー主催のクリーンエネルギー自動車のイベントに「超越3号」が参加した。

日本や米国、ドイツなどの燃料電池車が並ぶなか、7項目の技術性能テストを受けた。上海にいた馬さんの元に届いた結果は、二酸化炭素排出、燃費、排ガス、騒音の項目でA、S字走行でB評価だった。ブレーキや加速性能ではDだが、ライバル車の多くもCかD。パリに出かけた燃料電池車開発の総責任者、万鋼・同済大学学長も「わずか5年でここまで来られた」と感慨深げにいう。

でも、立ち止まっている暇はない。ホンダは連続走行ですでに570キロに達している。

中国は今、車が爆発的に増えている。新車販売台数は00年の200万台余から昨年は721万台となり、日本を追い越した。当然ガソリン需要や二酸化炭素も急増する。

そんなエネルギーや環境面の懸念を払いのけ、外資が多く参入する自動車産業で国産が主導権を握りたいとの政府の思惑が、燃料電池車の開発へと駆り立てさせる。

          *             *

「燃料電池の大衆車を実現したい」

カナダの燃料電池メーカー大手バラード社に勤務し、帰国後は同済大と組んで燃料電池の生産を手がける上海神力科技有限公司の胡里清社長(43)は意欲満々だ。

日本製の燃料電池車のコストは1台数千万〜1億円とされる。一方、中国の燃料電池のコストは1キロワット当たり1万元弱(約15万円)で、標準的な車の容量50キロワットなら車体の経費を加えても70万〜80万元(1100万〜1200万円)と、胡さんは説明する。

ほとんどの部品を海外に頼らず自主開発していることがこの「価格差」を生んでいるようだ。馬さんはさらに、「3〜4年後には今の4割程度にコストダウンできそう」という。いずれは日本でのカローラのような人気車を、との意気込みだ。

地元上海市は08年に燃料電池車を100台、09年に千台、11〜12年には1万台普及させるという「百・千・万計画」をすでに立て、燃料の水素の供給所を設置し始めた。10年の上海万博までに10カ所できるという。

水素の調達方法や安全性、インフラ整備など燃料電池車のハードルはまだ高い。だが、いつまでも化石燃料に頼っていくわけにはいかない。温暖化を克服するための人々の努力が続く。

◆キーワード
<燃料電池>
水の電気分解で水素と酸素を発生させるのとは逆に、水素と酸素を化学反応させて熱と電気を生み出す装置。水素を化石燃料から取り出す場合は二酸化炭素が出る。02年にトヨタ自動車とホンダが世界で初めて燃料電池車を実用化し、中央官庁で使い始めた。北京では燃料電池バスが試験運行している。自動車以外にも家庭用コージェネ(熱電併給)、携帯電話やパソコンなど小型電子機器への応用も考えられる。

 

2007年 2月 7日


▼ バックナンバーへ

∧このページのトップに戻る
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。 Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.