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アジアの知的リーダーたれ


天児 慧
早稲田大学教授(現代中国論)

天児
早大大学院アジア太平洋研究科長。朝日新聞アジアネットワーク委員。59歳

21世紀の国際社会をどのように見通すかという議論がなされて久しい。その論点の一つが総合国力の変化に伴うパワー・トランジション(移行)である。米国の覇権はいつまで続くのか、それに代わる台頭国家は出現するのか。

ある米国のシンクタンクは、2020年の国内総生産(GDP)のトップが中国で、2位米国、3位インド、そして4位が日本と予測した。中国のGDPは、昨年も前年比10.7%増の約2兆6000億ドルと依然として驚異的な経済成長を続けている。00年に初めて1兆ドルを超えたが、当時は日本の5分の1強の経済規模でしかなかった。それがわずか6年間で2分の1を突破する勢いで迫っている。

来年の北京オリンピック、10年の上海万博を考えれば、15年ごろには日本を追い越すという話も現実味が出てくる。権威ある英国国際戦略研究所の最近の報告によれば、国防予算に算入されない軍事研究開発費、海外からの武器購入費などを加算し、購買力平価換算で計算すると、中国の06年軍事費は日本の約3倍の1220億ドルに達し、すでに米国に次ぐ世界第2位の軍事大国になった。

21世紀を見通すもう一つの論点は、欧州連合(EU)に続き世界各地で芽生えている地域協力の枠組みが今後も進展し、包括的な協力・共存・安定の制度的枠組みとなっていくのか否かである。最も注目されているのが東アジア共同体の形成であり、そこでもまた中国のプレゼンスをどう認識し、いかに「中国的覇権」でない平等で調和の取れた共同体を構想するかがポイントとなってくる。

小泉前政権は中国との対話、アジア各国との連携強化に力を入れるよりも、むしろ「米国一辺倒戦略」で台頭中国に臨もうとした。しかし、それは日本の外交プレゼンスを著しく低下させただけで、中国の膨張を抑制する効果は全くなかった。

では、どのように考えるべきか。私から見れば、問題の根本は、老齢化、少子化などにより大幅な経済成長が期待できなくなった日本社会自身をどう認識し、自らを生かす道をどう思索するかということにある。

「エコノミックアニマル」の復活はもはやありえない。では、今後の日本は二流三流の国に成り下がるしかないのか。

そうは思わない。日本には人間がすむに適した素晴らしい自然の恵みがあり、充実した社会資本がある。高度な技術開発や調和の取れた社会実現にさらに力を入れていけばアジア、世界をリードする強力なソフトパワーを持つことができるだろう。

幅広い分野のソフトパワーを支えるのが人材の育成であり、これこそが日本を再生させる条件である。経済成長は驚異的でも深刻な内部矛盾を抱え、社会資本・人材育成インフラの乏しい中国が容易に追い越せない部分である。その強みが生かされれば中国との相互補完も可能になってくる。手前みそだが、私の大学ではアジアの主要大学と連携し、すでにそうした人材育成拠点を目指すプログラムを本格的に立ち上げ始めている。

日本がソフトパワーで世界をリードするために必要なもう一つの条件は、世界とりわけアジアから尊敬を受けるに足る国になることであろう。そのためには(1)平和主義、民主主義をより充実させること(憲法の精神を守り、生かすことが国際的なアピールになる)(2)国境を超える国際的な諸問題解決に積極的に取り組み、国益むき出しでない真の国際貢献という評価を受けること(3)隣国との間に存在する領土・領海、歴史認識、靖国参拝といった「対立・係争」問題の解決ために創造的な知恵を働かせ、協調・協力・共生のモデルを構築することである。

もちろん、それは容易ではない。しかしこうした努力を通してこそ隣国との信頼関係が生まれ、「尊敬され頼られる日本」が可能となり、ソフトパワーを効果的に発揮する知的リーダーとなることができるのである。

2007年 2月21日


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