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朝日アジアフェローから

中国の体制変革 日本の側面支援カギに


国分 良成
慶応大学教授(現代中国論)

国分 良成
慶応大学東アジア研究所長。元朝日新聞アジアネットワーク委員。53歳

温家宝・中国首相は安倍首相の昨年10月の中国訪問を「氷を砕く旅」と表現し、今回の自らの訪日を「氷を溶かす旅」と表現した。まだお互いに疑心暗鬼だが、確かに氷は溶け出した。今回の訪日は、関係を前に進めた点で成功であったと評価できよう。

温首相訪日の目玉は国会での演説であった。圧巻は「国交正常化以来、日本政府と日本の指導者たちは何回も歴史問題について態度を表明し、侵略を公に認め、そして被害国に対して深い反省とおわびを表明しました。中国政府と人民はこれを積極的に評価しています」と語った部分だ。

近年日本側に「何回謝罪すればいいのか」との不満が広がっていた。今後も実際の行動が重要だと中国側はクギを刺しているが、今回の表現で、日本の歴史問題への対応が基本的に正しかったことを中国側が公式に認めたことになる。

もう一つ注目すべきは、日中の戦略的互恵関係の具体的中身である。首脳会談後の共同プレス発表がこの点を明示している。第一は対話の促進で、首脳交流、経済・外交の高官対話、さらには中国海軍と海上自衛隊の艦船の相互訪問も合意された。第二は互恵関係の強化で、エネルギー、環境、農業、金融などでの協力、第三は国際分野で、国連改革、北朝鮮問題などでの協力がうたわれた。これとは別枠で東シナ海問題も取り上げられた。この海域をいかに「協力の海」に転換させるかが、戦略的関係の最初の試金石である。

  □  ■  □

近年、日中間の人の交流や文化接触は増大し、経済面でも相互依存が深まり、日本の経済再生が中国市場に依存する度合いも高まった。だがこの現実に甘えるかのように、過去何年にもわたって政治の世界では関係悪化を放置してきた。

日中両国で歴史問題が国内政治に絡みつき、身動きのとれない状態が続いた。世界では日中戦争が勃発(ぼっぱつ)するかのような報道までなされ、日中両国に問題解決能力はないとさえ言われ、米国、欧州各国、韓国などが調停役を買って出ようとすることもあった。

窮状を打開したのは安倍首相の電撃訪中であった。個人の思いより国益を優先させた外交は支持率を上昇させた。それまで中国は靖国参拝中止を首脳交流の条件にしていたが、胡錦濤主席も党内の不満を抑えこれに目をつぶって関係正常化を優先させた。関係改善は2人のリーダーの決断と信頼によるところが大きい。

これで日中関係は安泰なのであろうか。答えは否である。過去何年にもわたる関係の悪化は、両国の国民の相互イメージを深く傷つけたままである。首脳交流の復活だけですべてが変わるわけではない。関係改善への歩み寄りを快く感じない人々や政治勢力も根強い。現に、中国ではそれらを上から抑えている。

中国が民主化しない限り正常な関係は作れないとする主張がある。確かに中国はまだ民主体制ではない。私も長年中国の民主化を望む者であり、学者としてその可能性を探ってきた。しかし、だからと言って今の中国と交流ができないとは言えない。米欧各国も、近年では中国への人権や民主の要求を抑え、存在感の高まる現実の中国との関係強化に腐心している。

歴史をたどれば、日本は改革開放路線に踏み出したばかりの中国に、後戻りさせないよう経済援助を開始した。天安門事件で苦境に陥った中国を、孤立させないよう走り回ったのも日本であった。その後中国は市場経済路線に踏み込み、今日にいたる経済成長に突入した。日本は中国のWTO(世界貿易機関)加盟も促進した。つまり日本は体制民主化にこだわる欧米以上に、中国の体制変革を側面支援してきた。

だが、真の体制変革はこれからだ。容易な作業ではない。国際経済と一体化した中国の混乱を望む国はない。中国の安定的体制移行へ向け、日本の側面支援は今後が正念場となる。成功も失敗も含め、日本の先進的経験を中国は必要としている。ここにこそ、両国の戦略的互恵関係の場が多くあるように思える。

2007年 4月21日


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