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留学生受け入れ 複眼的な理念と戦略を

横田雅弘/一橋大留学生センター教授 NPO法人JAFSA(国際教育交流協議会)副会長

2007年07月16日

写真:横田雅弘さん

 教育再生会議が掲げた留学生100万人構想をはじめ、経済財政諮問会議やアジア・ゲートウェイ戦略会議など政府直轄の会議が、留学生受け入れの大幅拡大を相次いで打ち出した。

 だが、たくさん受け入れればよいという単純な話ではない。何のために受け入れるのか。その基本理念をしっかりと定めた戦略的な取り組みが必要だ。

 世界の留学生数は2025年には現在の3倍を上回る約700万人に達するとの予測もある。なかでも、急速な経済発展が続くアジアでは「高度人材争奪戦」の観すらある。受け入れ拡大を提唱する各会議の報告からは、こうした潮流や経済のグローバル化、日本の少子高齢化に対応しようという狙いが読み取れる。

 一方、1980年代に始まった日本の留学生受け入れ10万人計画の基底に流れる「途上国援助」の理念は、いまも「国益」を前面に掲げることへの抵抗感を醸している。このどちらともつかない曖昧(あいまい)な理念のもとで、目的がはっきりしない受け入れが続いてきた。これが日本の留学生政策の根本的な問題だ。

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 留学生政策は、受け入れる側と送り出す側に共にプラスとなる懐の深いものでなければならない。

 その意味では、「援助」「国益」「文化交流」のいずれかに偏るのではなく、それらを併せ持つ複眼的な理念が必要だろう。そして、それぞれに戦略的な柱を立て、目的を明確にした成果の見えるプログラムを策定することが重要だ。

 では、具体的には何をすべきなのか。まず必要なことは、文部科学省と関係省庁・諸機関が一つのテーブルにつき、明快な理念に基づく一貫した政策をオールジャパンとして打ち出すことである。これまでのような縦割りのちぐはぐな政策では、受け入れ先進諸国に太刀打ちできない。

 例えば、法務省の入国管理政策は歴史的に留学生数の増減を大きく左右してきた。これが文科省の受け入れ政策と連携していたとはとても思えない。

 また、今後は経済政策との密接な連携も必要だろう。世界の受け入れ先進諸国は、この連携をテコに国を挙げた施策を繰り出している。高度人材の獲得に国の将来を賭けるシンガポールでは、経済開発庁が関係省庁を招集し留学生政策を推進している。

 これからの留学生政策は、従来のような大学在学期間だけに焦点を当てたものでは不十分だ。

 留学生は自分の将来全体を考えて留学を決める。卒業後、日本で十分に力が発揮できる環境を求めている。日本も、留学生を将来の働き手、社会の担い手として考えるならば、永住権や地方参政権を認め、住民として受け入れる覚悟がなければいずれ問題化する。身分も権利も不安定なまま就職だけを歓迎するような上辺の政策では、すぐにそっぽを向かれるだろう。

 入学前についても、解決すべき課題がある。日本語学校を経て大学に入学する留学生は現在、全体の7割にも及ぶが、その設置形態や質の保証、入国査証(ビザ)の認可に関する法的整備と支援は遅れている。そこで学ぶ「就学生」は身分的に「留学生」の下位に置かれ、扱いの差は大きい。

 日本が多文化共生社会を構想するなら、日本語学校は地域の外国人支援の入り口にもなり得る。将来、日本語教育をどこが担うのかを見極めて整備すべきだ。

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 国費留学生制度の改革も提言したい。日本の留学生政策が何を目指しているのか、それを世界に示すよい方法にもなるからだ。

 ポイントの一つは援助理念を貫くことである。例えば、エイズ研究者の育成など途上国援助の目的を国別に明確にした制度を立ち上げ、留学生の帰国後も国際協力機構(JICA)などと連携して成果が出るまで徹底的に支援する。帰国した留学生をその分野のリーダーに育てることで、日本の国費留学生制度の成果を世界に示し、特にアジアへの貢献で日本のプレゼンスを高めることができる。

 もう一つは、将来日本で活躍する可能性の高い優秀な留学生を招き入れることである。そのためには、国費留学生が国立大学に極端に偏在する現状を改め、私立大学にも開放して競争的資金と位置づけ、全大学を巻き込んだスケールの大きなものにすべきだ。このプログラムの留学生は全額支給にしない代わり、人数を大幅に増やし、卒業後の就職も支援する。優秀な学生には奨学金を増額すればインセンティブも高まる。

 大学の変革も必須だ。私がかかわった全4年制大学を対象とする文科省科学研究費の調査では、明確な受け入れ理念を持つ大学は2割しかない。「国際化は良いことだ」などというお題目ではなく、なぜ自分の大学は留学生を受け入れるのか、とことん考え抜く必要がある。

 負担も大きい留学生受け入れをいかにすればプラスにし得るのか。政府は、この課題に挑戦する大学にこそ受け入れ拡大の競争的資金を投入すべきである。

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