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朝日アジアフェローから

朝鮮半島平和体制 日本も「戦略的決断」の時

李鍾元/立教大法学部教授

2007年11月05日

写真:李鍾元さん

 朝鮮半島情勢が大きな曲がり角を迎えている。昨年10月の北朝鮮による核実験の衝撃から1年。依然として「核保有国・北朝鮮」の厳しい現実は続くが、核危機の根本的な解決をめざす「大きな外交」が最終段階にさしかかっている。

 状況を一変させたのは、アメリカの政策転換による米朝交渉の急進展であった。逆説的にも、北朝鮮の核実験を契機に、ブッシュ政権は内部の強硬・穏健両派の論争に終止符を打ち、北朝鮮との交渉路線にかじを切った。今年1月のベルリン会談以来、米朝間の合意が6者協議の進展を導き出してきたのは周知の通りである。

 「年内」を期限とする核施設の無能力化は今週から本格的に着手され、焦点のウラン濃縮計画や抽出プルトニウムなど、北朝鮮の核能力の核心に迫る申告も年内に行われることになった。それと引き換えに、拉致問題の「進展」が条件ではあるが、テロ支援国家指定の解除の年内実行を約束する米朝間の別途了解覚書があるとも報じられた。(ワシントン・ポスト、10月3日付)

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 たしかに「無能力化」の内容には不十分なところが多く、外交的実績を演出したいブッシュ政権の政治的思惑先行への批判も絶えない。しかし、それも、裏返していえば、政治主導の下、「核廃棄」という最終段階の決着を急ぎたいという政治的意志の表れに他ならない。「任期内」の核問題解決をめざすブッシュ政権の姿勢はほぼ一貫しており、明確な方針の存在を強く示唆している。その成否は未知数だが、少なくともその可能性を真剣に追求していることは事実であろう。

 核実験にまで踏み切った核保有国が外交交渉によって核を放棄した前例はなく、北朝鮮体制の不透明性への不信感から、懐疑論も根強い。国際的に孤立した北朝鮮にとって、核保有は確実な軍事的安全保障の手段であり、対内的には体制の威信を誇示する意義を持つ。しかし、核開発には巨大な政治的コストが伴うのも事実であり、その観点から、北朝鮮の「戦略的決断」への期待が米韓中など関係国政府内の交渉論を支える論拠となっている。

 何より、昨年の核実験以後、北朝鮮に対する経済制裁は強化され、現在もその骨格は維持されている。長年の制裁状況の下、ある種の耐性があり、中韓との経済関係に依存しつつ、体制の生存は何とか維持している。とはいえ、エネルギーの慢性的な不足の下、縮小する経済を立て直すためには、対外関係の改善は欠かせない。

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 また、昨年の核実験は完全な成功とはいえず、核兵器の実戦化のために必須とされる複数回の実験が行われていないことから、北朝鮮の「核兵器」の未完成を指摘する見解もある。1回だけの核実験にとどまらざるをえなかったこと自体、北朝鮮が直面する国際政治的な制約の大きさを物語っているといえる。健康不安を抱え、後継体制が不安定な中、金正日総書記にとっても、長年の課題である対米関係の改善への「戦略的決断」の必要性と可能性がもっとも高い時期を迎えているのは客観的に否定できない。

 ブッシュ政権が進める包括的解決の柱となっているのが、朝鮮戦争の終結宣言や平和協定の締結を中心とした朝鮮半島の平和体制構想である。05年9月の6者協議共同声明に初めて明示されて以来、今年10月4日の南北首脳会談の共同宣言で「3者もしくは4者の首脳宣言」推進の合意で、日本でもにわかに注目を集めたが、米韓中の間では少なくとも05年ごろから検討が重ねられてきた。

 国務省ではライス長官の腹心であるゼリコ元国務省顧問を中心に作業が進められたと報じられたが、アメリカ政府の考えの一端は、今年4月に公表された超党派の外交政策シンクタンク「アトランティックカウンシル」の報告書から窺(うかが)い知ることができよう。米朝(そして日朝)国交正常化、米韓朝の3者による軍事協議、米中韓朝の4者による平和協定、6者の北東アジア安全保障機構など、重層的な枠組みに関する詳細な検討からは、アメリカが朝鮮半島の冷戦構造を根底的に解体し、新たな地域秩序構築を構想している様子が浮かび上がる。

 依然として不安定要因は多く、曲折も予想される。しかし、20年近くに及ぶ核危機への試行錯誤の対応を経て、関係国の間には、重層的な冷戦構造解体による包括的な外交解決へのコンセンサスが生まれつつあり、比較的短期間に朝鮮半島をめぐる情勢が激変する可能性も少なくない。

 日本としても、朝鮮半島の冷戦構造解体を視野に入れ、拉致問題などの懸案を解決しつつ、総体的な国益確保をめざす対朝鮮半島政策を構想し、実行に移す「戦略的決断」のときではないだろうか。そのためにも、それぞれ国内政治の転換期を迎えている日韓両国の長期的な協調体制の再構築を期待したい。

リージョンウォン 立教大教授〈国際政治、アメリカ外交〉)

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