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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

福田外交 共鳴なるか「日米」とアジア

高原明生/東京大教授

2007年12月19日

写真:高原明生さん

  1977年、当時の福田赳夫首相は日本の東南アジア外交に関する原則を提示した。日本が軍事大国にならず、心と心の触れ合う信頼関係を構築し、対等な立場で同地域の平和と繁栄に寄与することを旨とする「福田ドクトリン」は、今日でも色あせていない。

  それから30年。息子の福田康夫首相は積極的なアジア外交を展開する意欲を語り、今は訪中を眼前に控えている。このほど開かれた朝日アジアフェロー・フォーラムでは、谷内正太郎外務事務次官をゲストに招き、小泉内閣以来の日本のアジア外交を振り返り、今後の方向性を議論した。

  そもそも戦後日本外交の大きな課題は、国連を中心としつつ、自由主義国と協調し、かつアジアの一国としての立場を堅持することであった。その後、国連に託した理想は後退し、60年の安保改定と70年の自動延長、そして沖縄返還を経て、対米関係が外交の基本となった。しかし、アジアなかんずく中国の台頭もあり、今や外交課題の間のバランスの取り方が重要な問題となっている。

 小泉内閣は9・11同時多発テロへの対応をきっかけにブッシュ政権との緊密な関係を築いた。だが、靖国参拝をめぐってこじれたアジアとの関係構築に力を入れたとは言いがたい。一方、安倍内閣は中韓との関係改善を最大の外交課題とし、とくに戦略的互恵関係を目指すことで合意した日中間の雰囲気は一変した。

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 福田内閣の外交政策の要点は日米同盟の強化とアジア外交の新展開を共鳴させることにある。共鳴はシナジーと英訳されるが、二者が互いに促進しあう相乗効果が意図されている。近く行われる訪中では、「共鳴外交」に中国が共鳴するか、アジア安定化のための日米中三者協議の実現に向けてはずみがつくかという点にも注意したい。

 対中外交の基本は歴史と台湾にほかならない。侵略を反省し、非軍事大国として世界に貢献するという日本の基本姿勢にはいささかの揺るぎもない。しかし小泉内閣時代の日中間の綱引きは、歴史が依然として両国民の感情をかき立てる敏感な問題であることを十分に示した。

 台湾に関しても、その一方的な独立も武力行使も支持しないという日本の立場に何ら変更はない。大陸側が過剰反応すれば台湾の人々の気持ちは硬化する。「人をもって根本とする」方針をとる胡錦濤政権は度量を示し、たとえば世界保健機関への台湾のオブザーバー参加を認めてもよいのではないか。

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 今や日本の最大の貿易相手国となった中国との関係構築は間違いなく重要である。だが、問題が多いのも日中関係の特徴だ。対応が急がれるのは東シナ海のガス田問題だが、双方の譲歩により世界をあっと言わせるような創造的な解決を期待したい。他方、今年は中国の国防相も海軍艦艇も来日した画期的な年になった。ぜひ来年は日本側が訪中を果たし、防衛交流を確かな軌道に乗せたい。

 安倍内閣において、アジア外交との絡みで問題が生じたのが「主張する外交」ないし「価値外交」だった。自由や人権、市場といった普遍的価値を重視し、進んで行動するという能動性にその眼目があったという。しかし、「自由と繁栄の弧」や日米豪印の安保協力の提唱は、韓国不在への不審や、中国封じ込めではないかとの疑いを招いた。

 それのみならず、「主張する外交」が戦後レジームからの脱却を唱えた安倍内閣の思想性に由来するとみられたことは、対米関係にも影響を及ぼした。日本の首相に謝罪を求めた米国議会の慰安婦決議問題をめぐる不手際は記憶に新しい。

 北朝鮮のテロ国家指定解除問題も、拉致問題を抱える日本の対米関係の文脈で語られることが多い。しかし、たとえ指定解除が行われても、それが拉致問題の解決を妨げると考えるのは論理的に正しくない。

 朝鮮半島の非核化を確実にすることは焦眉(しょうび)の急である。そして核・ミサイル問題解決の先には長期的な東北アジア安全保障制度を構想するという課題がある。米大統領選の民主党候補の座を目指すヒラリー・クリントン上院議員は多角的な安保枠組みを提唱している。だが、日本こそ知恵を絞ってアイデアを示さなければ、東アジア安保秩序は米中間の話し合いで決められることになりかねない。

 好むと好まざるにかかわらず、東アジアは経済領域を先頭に統合へと向かうのが歴史の方向性だろう。持続的な平和と発展を担保する枠組みづくりに向け、対話を重ねることには大きな意義がある。

 しかし、グローバル化が進むほどアイデンティティーの争いが激しくなる面もある。相手の国民を対象とする公衆外交(パブリック・ディプロマシー)を強化することが、アジアにおいては特に重要であることを最後に強調したい。

 たかはらあきお 東京大教授(現代中国政治)

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