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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

東アジアFTA 米国視野に重層的枠組みを

 畠山襄/国際経済交流財団会長

2008年2月11日

写真:畠山襄さん

 いま、東アジアの関係国間で自由貿易協定(FTA)をつくるための準備が粛々と進められている。この地域には、北米自由貿易協定(NAFTA)や欧州連合(EU)に匹敵する域内の枠組みがないだけに、実現すれば貿易や投資が一層活性化するものと期待が大きい。だが、問題はこの動きに神経をとがらせる米国との関係だ。

 東アジアFTA構想は、現在、中国案と日本案が提出されている。前者は東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に日中韓を加えた「ASEAN+3」を加盟国とする案であり、後者はこれにインド、豪州、ニュージーランドを加えた16カ国案である。いずれの構想も、それぞれの政府の了解のもとに、各国の民間専門家による共同研究が行われている。

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 米国政府は、この構想に自国が含まれていないことに不快感を隠さない。それでも、「東アジア」と銘打ったFTAへの加盟を主張するのはさすがに無理筋と考えているのか、正面からの加盟要求は控えている。しかし、民間シンクタンクなどの意見はもっと率直だ。彼らは言う。

 「米国は地理的には東アジアに属していない。だが、この地域の多くの国々にとって最大の輸出市場であるし、日本を始め多くの国々の安全保障を二国間条約で確保している。そんな米国を加盟させないのはおかしい」

 確かに米国は、多くの東アジア諸国にとって最大の輸出先であり、最終的な安全保障の担い手でもある。しかし、第2次世界大戦直後の欧州も似たような状況にあった。当時、米国は欧州の経済復興に尽力し、北大西洋条約機構(NATO)設立などによりその安全保障の確保に貢献した。にもかかわらず、当時の欧州経済共同体には入らなかった。米国が欧州に位置していなかったからであり、東アジアに属さない米国が東アジアFTAに入れないのも全く同じ理由によるものだ。

 米国が東アジアFTAにやや過敏とも言える反応を示すのは、1990年に当時のマハティール・マレーシア首相が提唱した「東アジア経済グループ(EAEG)」構想を想起させるからかもしれない。同首相の案では、無論米国はメンバーとして想定されておらず、当時のベーカー国務長官は「太平洋のど真ん中に一線を画すもの」と強く批判。これに対し、東南アジアには「それならNAFTA(案)はどうなのか」との反発の声があったことはよく知られている。

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 実は、この問題の難しさは単なる地理上の話を超えたところにある。東アジアの国々が、米国抜きで地域統合を行う自由を有しているのかどうかという基本的な問題について、双方の意識に大きなズレがあることだ。

 東アジアの国々は、そうした自由を有しているのは当然で、それを立証するためにも米国抜きで域内FTAをつくるべきだと考えている。そうすれば、域内の貿易・投資が一層活性化し、過剰な米国市場への依存も改善されるので米国の利益でもあると主張する。

 一方、そう簡単には割り切れないのが米国の本音だろう。まず、この地域の面倒を長年みてきたという強い自負がある。そして、何よりも、急成長が今後も見込まれる東アジアの市場から、これを機に遠ざけられはしまいかとの危機感がうかがえる。欧州のときほど、余裕がなくなっているのかも知れない。

 より冷静に考えてみれば、米国をこの地域に経済面で制度的につなぎ留めておくことは、米国だけでなく、東アジア諸国にとっても望ましい。世界最大の市場への自由な参入が条約で保証されるからだ。

 双方にとってメリットのある関係は、米国が無理にこのFTAに加盟しなくても構築できる。まず、米国が同地域の国々と個別にFTAを結び、その数を増やしていくことだ。そして、もう一つの方法は、東アジアFTAとは別の、この地域を含んだ新たな地域FTAに米国が参加することである。

 個別FTAに関しては既に米国・シンガポールFTAがあり、先ごろ合意された米韓FTAもこの観点から大いに歓迎されるべきだ。日米FTAが実現すればこの範疇(はんちゅう)に入る。

 もう一つの地域FTAに関しては、一昨年ハノイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合で米国が提案した、APECメンバーによるFTA(FTAAP)構想がある。東アジア諸国は総じてこの構想に乗り気でないが、行き詰まり気味のAPECを活性化し、同地域に重層的な地域経済統合を実現するためにも積極的に推進すべきではないか。

 APECは日米中などが主要加盟国であり、これらをメンバーとするFTAができれば真に画期的な成果となろう。現在21のAPECのメンバー数がFTA交渉には多過ぎるなら、その中の有志によるFTA形成も一案であろう。(08年2月11日紙面掲載)

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 (はたけやまのぼる 国際経済交流財団会長)

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