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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

アジア新地図 実利主義とバランス感覚

 木宮正史/東京大大学院准教授〈韓国政治外交論、国際政治学〉

2008年04月18日

写真:木宮正史さん

 昨年末の韓国大統領選挙でハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)氏が、また、先月の台湾総統選挙では国民党の馬英九(マー・インチウ)氏がそれぞれ勝利し、いずれも与野党間の政権交代が実現した。民主化以後、その運動を担った野党が政権の座につき、いったんは選挙で再信認されたが、今回、再び旧与党勢力へ政権が戻ったことになる。

 韓国と台湾は、日本の植民地支配、冷戦体制下の「分裂国家」、アジア新興工業経済地域(NIES)型発展、漸進的民主化の成功など、実に類似した歴史経験を持つ。先ごろ開かれた朝日アジアフェロー・フォーラム「アジア新政治地図と日本―ポピュリズムからバランスの時代へ」では、朴摧Α淵僖・チョルヒ)ソウル大学准教授と谷野作太郎・元駐中国大使をゲストに迎え、韓国と台湾の今回の選挙と政権交代の意味について活発な議論が展開された。

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 キーワードは「実利主義」と「バランス感覚」だ。イデオロギー過剰な政治を行った与党に不信任を突きつけ、実利主義的でバランスのとれた政治を期待して、有権者が野党へ投票したということだ。韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権による「われわれ民族主義」、台湾の陳水扁(チェン・ショイピエン)政権による「台湾独立論」が対外的な緊張を不必要に高め、外交の選択肢を狭めることで「国益」を阻害したと認識された。

 それに対して、李明博新政権は実利主義を掲げ、「先進化」「グローバル・コリア」を国家目標に設定し、米韓同盟関係の復元だけでなく、その「アップ・グレード」を視野に入れる。台湾の馬英九次期政権も、性急な独立論を回避し、中国との経済関係を深めることで経済発展を模索する。

 これは、価値外交を標榜(ひょうぼう)した安倍政権から実利外交を重視した福田政権への交代と相まって、東アジア「仕事師」政権の続出と見ることもできる。

 盧武鉉政権下で日韓の政府間関係が冷却化していただけに、韓国の政権交代は関係好転の好機だろう。対北朝鮮政策などで両国の外交が共鳴するケースも増えそうだ。他方で、李明博政権に対する日本側の「期待値」が高すぎるのではないかとの懸念もある。特に、歴史問題に関する楽観論にはフォーラムでも警鐘が鳴らされた。

 イデオロギー過剰な外交によって封印されてきた、実利主義に基づく多国間外交の可能性が、選挙による政権交代という民主主義の至極当然なメカニズムによって開かれたことは、東アジアにおける民主主義の成熟を示しているとも言える。

 では、東アジアの望ましい国際関係を構築するために、こうした機会をどのように生かしていくのか。それを論じるとき、われわれがまず考えなければならないのが、台頭する大国・中国との関係、さらに、唯一の超大国・米国との付き合い方だ。

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 「一つの中国」という原則は、中国にとって譲れないかも知れない。だが、台湾を孤立させることなく、台湾の人々の共感を得るような寛容な政策を、中国に選択させる良い知恵はないのか。また、北朝鮮の非核化に向けて、有効な影響力をいかに行使させ得るのか。チベット問題や北京五輪などで注目が集まる中国を、透明性の高い、信頼に足る大国として地域秩序に組み入れていくことは、地域の将来にとって死活的に重要な課題である。

 東アジアにおける米国のプレゼンスは、かつてほど絶対的ではなくなったとはいえ、依然として重要であることに変わりはない。存在感を増す中国との関係を念頭に置きつつ、米国との同盟関係をどう管理していくのか。これも日韓が共有する課題だ。

 これらの課題に取り組むため互いに協力の必要性は大きいし、協力によって得られる利益もまた大きい。

 世論の支持に支えられた民主主義は、こうした外交課題に取り組む際、有効に機能する。しかし他方で、世論が排他的なナショナリズムに流れる可能性も排除できない。

 特に日韓では、外交の選択肢を狭める障害として、歴史問題に起因する相互不信が常に横たわってきた。この問題を果たしてコントロールしていけるか。双方の外交の新たな可能性を切り開くための重要な条件となる。

 成熟しつつある民主主義の下で、共有する課題に取り組むためには、実利主義やバランス感覚だけでは十分でない。日本は、ソフトパワーに支えられた外交構想力を、韓国や台湾などの共感や協力を獲得しながら、どのように提示していけるのか。今まさに問われている。

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 (きみやただし 東京大大学院准教授〈韓国政治外交論、国際政治学〉)

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