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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

東アジア統合 日本は指導力発揮の好機

 木村福成/慶応大教授〈国際貿易論、開発経済学〉

2008年06月16日

写真:木村福成さん

 今年4月、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)との間の自由貿易協定(FTA)が署名に至り、中国とASEAN、韓国とASEANとあわせ、ASEAN+1のFTAが出そろった。

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 それを踏まえ、大きく五つの変化が認められる。これらの変化は、対応次第で、日本にとって危機とも好機ともなりうるものである。

 第一に、東アジアでは、当分の間、構成国を絞って政治統合まで踏み込んでいく統合ではなく、外に開かれたFTA網が重層的に形成されていくことがはっきりしてきた。日中韓のFTAが結ばれない限り、統合地域としての東アジアは完結しない。そうなる前に、東アジア諸国は次々と域外国とのFTAを結びつつある。ASEANは東アジア経済統合の「運転席」に座っているが、地域をとりまとめるだけの力量はない。

 しかしこれは、東アジアとアジア太平洋の間のバランスをとっていくことを外交の要諦としている日本としては、そのための条件が整ってきたということでもある。

 第二に、モノの貿易の自由化を超える、より深い統合が必要との認識は、抽象論としては共有されるに至った。しかしサービス、投資、その他の分野についてのさらなる自由化のシナリオはまだ定まっていない。ASEANはASEAN経済共同体の青写真を発表し、より深い統合への意欲を示している。しかし、その内容は、日本を含む域外国がそのまま採用できるような成熟度には達していない。

 これは本来、先進国が主導権を発揮しうる分野である。単に多国籍企業の活動についての障壁を撤廃するだけでなく、制度の構築・改善まで踏み込んだ政策改革の設計など、日本が貢献しうる部分は大きい。日本がASEAN諸国と結んできた2国間FTAよりもさらに深掘りした内容が求められる。

 第三に、より深い経済統合の実現と同時に各国内および国際間に残る開発ギャップの縮小を目指すべきだとの認識が、地域全体で共有されるようになった。経済統合は格差拡大につながるとの懸念を払拭する必要が生じている。

 この点も、日系企業その他が展開している生産ネットワークを後発地域に拡大していくことで対処可能である。投資促進策や経済・技術協力に一日の長のある日本の貢献は重要である。

 第四に、環境・エネルギーなどの制約を考慮した持続的経済発展への関心が急速に高まっている。特に拡大東アジアには中国とインドという発展途上の大国が含まれており、地域大での政策対応が求められる。

 この問題も、経済成長を押し下げるものとばかり考えるのではなく、長年にわたる技術ノウハウの蓄積を有効に使っていくならば、日本は大いに貢献できる。

 第五に、東アジアおよびアジア太平洋地域では自由化度の極めて高いFTAが出現しつつある。世界貿易機関(WTO)の下でのドーハラウンドが終結した後、各国が新たな自由化の課題を求めていくとすれば、それは質の高いFTAが先導する形となる可能性が高い。

 この波に乗っていくためには、日本はタイミングを逃さずに残された宿題を片付け、経済外交の自由度を高める必要がある。宿題とは、残存する貿易障壁の撤廃、特に農業保護の見直しである。関税や輸入量制限などの国境措置を撤廃するスケジュールを明示した抜本的改革プログラムの実行が必要条件となる。

 このように、五つの変化を日本の東アジアにおける地位向上のための契機としていくには、大胆な戦略的発想が不可欠である。

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 日本の強みは東アジアに対し知的貢献をなしうるところにある。私もかかわっている東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)は、知的貢献の努力の一つである。6月3日に設立総会が開かれ、正式に発足した。ジャカルタに仮事務所を置くことが決まっている。拡大東アジア16カ国の研究所の協力を得て、有用な政策研究を行っていく下地ができつつある。

 ERIAにおける研究では、経済統合を単に通商政策の問題として取り扱うのではなく、経済格差の縮小という開発の視点といかに両立させるか、さらにそれを環境・エネルギーなどを考慮した持続的経済発展としていくかが主題となる。

 日本の知的貢献についての絶対的優位も、中国をはじめとするアジア諸国の教育熱と若手研究者の台頭により、案外早く失われてしまうかも知れない。強みを有するうちにそれを十二分に発揮して地域に貢献し、日本にとって住み心地のよい東アジアを作っていかねばならない。(2008年6月16日紙面掲載)

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 (きむらふくなり 慶応大教授〈国際貿易論、開発経済学〉)

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