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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

サミット まず責任転嫁をやめよう

 明日香壽川/東北大教授(環境エネルギー政策論)

2008年7月7日

写真:明日香壽川 東北大教授

 今日から始まる主要8カ国(G8)首脳会議では、地球温暖化対策で2013年以降の枠組みについて前進できるかどうかが、注目されている。直近の状況と各国のポジションを確認してみよう。

 米国が主導する主要な経済諸国の会合が6月末にソウルで開かれ、「途上国も含めて2050年に温暖化ガス排出量50%削減(基準年なし)」という長期目標が提案された。中国とインドを含む途上国側はいったん受け入れたが、途上国側の交換条件だった「先進国が2020年で20〜45%の削減(1990年比)」という先進国の中期目標提案に対して日本、米国、ロシアが反対したため、中期も長期も、具体的な目標数値の設定はできなかった。

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 現段階で日米ロが中期的な数値目標に合意するとは、残念ながら考えにくい。一方、途上国の削減義務明確化にこだわる米ブッシュ政権が、自らの花道を飾るために、先進国だけの長期目標を受け入れる可能性はわずかだがある。

 だが、交渉期限である09年12月の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)までの国際交渉を成功させるためには、長期目標よりも、(1)先進国の中期目標(2)途上国への技術・資金移転、の二つの方がはるかに重要だ。なぜなら、中期目標こそ次期枠組みの骨格であり、(1)(2)がはっきりしなければ、1人当たりの排出量やエネルギー消費量が先進国の数分の一に過ぎない途上国は、公平性という理由から、数値目標には合意できないからだ。

 このことは、あなたが途上国に住む人々であったらどうか、ぜひその立場で考えてみてほしい。

 サミットとCOP15を念頭に6月20日、「日本の環境外交を可能にするために」というテーマで開かれた朝日アジアフェロー・フォーラムでは、日本の政策と交渉姿勢が議論になった。

 日本政府は、いま中期数値目標設定に消極的な理由として「まだカードを切るタイミングではない」と主張する。しかし、私には、省庁間での意思統一ができないためカードを切りたくても切れず、判断を先延ばししているだけではないか、と思える。

 温暖化対策の国際交渉が難しい理由は、争点が温暖化ガスの排出削減の責任や排出削減コストを誰がどれだけ背負うかという問題だからだ。当然、権益喪失や新たなコスト負担を嫌う個人や企業、そして国は、自らの責任を最小化するために、他の主体の責任をなるべく最大化するよう努力する。

 例えば、政府や経済界の一部には「京都議定書は不公平」「途上国で排出削減をすればよい」「家庭部門のCO2排出が増えている」「排出削減の努力をしなくても革新的技術や将来世代が何とかしてくれる」という主張がある。しかし、結局は、これらは他者に責任を転嫁しているのではないだろうか。

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 誰もが自らの短期的利益を追求するのは理解できる。しかし、温暖化被害のコストは、現世代あるいは将来世代の誰かが負担することになる。また、原油高騰で1バレル140ドルの時代を迎え、08年だけで日本から24兆円の石油代を産油国と石油会社に支払う(日本経済新聞6月28日)。排出量取引などの温暖化対策の導入は、お金を国内での省エネや新エネへの投資にまわすことで、この国民所得の海外流出を減らすことができ、結果的に多くの日本企業の競争力を高める。

 したがって、もし日本が国際社会でのリーダーシップを考え、エネルギーコスト低減やエネルギー安全保障確立を目指すならば、他者ではなく自らは何をするか、ということをまずはっきり国内外に示すことが必要である。

 そのために、首相が行うべきは(1)他国、特に途上国や京都議定書などへの責任転嫁をやめさせる(2)日本の中期の数値目標策定プロセスを省庁の枠を超えたオープンな形で早急に立ち上げる(3)国内排出量取引制度の本格導入を明言する、の三つである。

 今年秋から試行される国内排出量取引制度については、「排出権が投機の対象となる」という米国のサブプライムローンなどのイメージを悪用した批判が出ている。また、「(低炭素社会を提唱した)福田ビジョンには本格導入という文言は入っていない」と試行への参加に消極的な企業もある。

 そうした言動を変えられるのは政治と世論である。サミットとその後の首相のリーダーシップ、そして温暖化とエネルギーを争点とすべき次回総選挙は非常に重要である。

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(あすか・じゅせん 東北大教授〈環境エネルギー政策論〉)

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