ここから本文エリア

現在位置:asahi.com>国際>AAN> AAN発

朝日新聞アジアネットワーク
AAN発

朝日アジアフェローのコラムやシンポジウムの詳報

合同シンポ「北京五輪後の新たな日中韓関係の構築」

2008年10月23日

 悲願の北京五輪を終えた中国の行方に注目が集まっている。国内問題に加え、米国発の金融危機、朝鮮半島情勢など不安定要素は多い。朝日新聞アジアネットワーク、中国現代国際関係研究院、韓国の東亜日報21世紀平和研究所は2008年10月11日、北京で合同シンポジウム「北京五輪後の新たな日中韓関係の構築」を開いた。主な議論を報告する。

 【基調報告者】
●日本
 安斎隆・セブン銀行社長、元日銀理事
 村松泰雄・朝日新聞論説主幹
 国分良成・慶応大法学部長、新日中友好21世紀委員会委員
●中国
 季志業・中国現代国際関係研究院副院長
 戚保良・同研究院朝鮮半島研究室主任
 楊伯江・同研究院日本研究所長
●韓国
 千辰煥・元LG中国社長、仁荷大客員教授
 金一栄・成均館大教授
 鄭鍾旭・元駐中韓国大使、ソウル大国際大学院客員教授

 【主催】
 朝日新聞アジアネットワーク(AAN)
 東亜日報21世紀平和研究所(PEACE21)
 中国現代国際関係研究院(CICIR)

      □  ■  □

地域安定へ戦略的対話を
金融危機克服へ首脳の交流必要

 五輪後の中国について、中国現代国際関係研究院(CICIR)の崔立如院長は「(米国発の)金融不安のほか、中国の発展モデルが転換期に入り、経済の減速傾向は間違いない。これまでの高成長は安価な労働力と資源の大量消費に依存し、環境破壊という代償を払った。持続可能な発展を図るには、成長パターンを変える必要がある」と発言。「四川大地震での救援活動や五輪開催を通じて、社会の開放(透明性拡大、市民社会の構築)が進んだ。この動きは今後も加速する」と述べた。

 国分良成・慶応大法学部長は「こんなにきれいな北京の空を見たのは本当に十何年ぶりで、五輪の成果の一つだ。青空を取り戻す努力と意識を維持してほしい」と強調。「政治改革というと、言論の自由、人権の話になりがちだが、根本的な問題は信用制度や税制(所得の再分配)。個人所得税が税収の7%しかないという制度の見直しこそ中国の民主化だ」と述べた。

 韓国の鄭鍾旭・元中国大使も「中国の貧富の格差は非常に大きい。農村問題を解決しない限り、持続的な発展はあり得ない」と付け加えた。

 安斎隆・セブン銀行社長は地域振興策として「企業を誘致するには社会基盤、道路が欠かせない。日本は税収が減ってから道路の拡張を続け、大きな負担になっているが、中国は財政に余裕がある今、交通網を整えてほしい」と強調した。

コラージュ

中台関係が安定

 北東アジアの安全保障問題で、朝日新聞の村松泰雄・論説主幹は「北朝鮮の核問題を除けば、北東アジアは比較的安定している。日中関係は改善し、韓国も対外的に安定度が増した。台湾は国民党政権になって中台関係が安定し、米国も歓迎している。これを持続させなければならない」との認識を示した。

 CICIRの戚保良・朝鮮半島研究室主任は「北朝鮮の核を巡る6者協議が始動し、北東アジアにおける安保協力のプラットホームができた。これをふまえて、(この地域で欠如している)安保協力メカニズムを構築することが重要」と主張した。

 これに対し、国分氏は「6者協議は今のところ最終目標の非核化に失敗している。(1)6者といっても本質は米朝協議(2)他の4カ国がばらばらで、北朝鮮にとって有利な状況が続いた、という背景がある」と指摘。また、「米中関係の最大の障害だった台湾問題が、これほど静かになったのは戦後初めて。中国は強硬な姿勢が脅威論につながることを理解し、態度を相当変えている。台湾は中国の単純な内政問題ではなく国際問題だ、ということを中国が行動で示し、同時に台湾も態度を変えた。中台間で双方が現状維持、平和共存で一致したこの状況を継続させたい」と語った。

米国衰退ではない

 鄭氏は「中国がどのような道を歩んでいくか、は国際社会の運命を左右する要素だ。日中韓の新しい協力の枠組み構築は国際的にも重要な意味を持つ」と述べた。

 CICIRの楊伯江・日本研究所長は「中日韓の2国間のみの戦略的対話を3カ国の対話に拡大できないだろうか。検討課題は(1)当面の経済と金融秩序(2)エネルギー問題での協調(3)海上交通路の安全(4)民族主義に関する議論だ」と強調した。

 世界金融危機も議論になり、国分氏は「日中韓の首脳に全く動きがないこと自体が非常に悲しい。電話会議さえできないのが、大人の関係になっていないことを示す。この地域ではどんな状況下でも首脳交流を絶やさないことが必要」と訴えた。

 米国の行方について、CICIRの季志業副院長は「中国は、米国の覇権が衰退したと考えていない。知己のロシアの学者たちも、直ちに米国の覇権に限界が来たと判断するのは時期尚早、という意見が多数」と述べ、他の参加者も同様の見方を示した。

      □  ■  □

対米輸出依存から脱却の時機

安斎隆/セブン銀行社長

写真:安斎隆さん
あんざい・たかし

 「五輪後の中国経済は大変だろう」という見方があったが、北京の経済的比重は全国の約4%しかなく、それほど影響はない、と感じていた。

 米国発の金融危機で世界経済が深刻化してくると、世界は「落ち込みをやわらげる役を」と、懇願するような目で中国や日本、韓国を見ている。

 米国は約10年前の日本と同じで、できるだけ早く金融機関の不良資産を処理することが重要だ。価値が落ちた資産を不良資産として認定すると、資本が不足し、民間での資金調達は難しくなる。傷んだ資本を公的資金で穴埋めし、金融機関が動けるようにしなければいけない。米国に望みたいのは、信用危機からの早期脱出。早いほど、米国だけでなく世界の負担も少なくなる。

 日中韓の発展の背景には、借金による消費で成長を維持する米国の政策があった。米国の経常赤字で世界の外貨準備高はここ数年、毎年1兆ドルずつ積み上がってきた。

 対米輸出で日中韓は経常黒字となり、為替介入によって国内に流動性を供給してしまった。サブプライムローン問題は実体経済から離れた流動性を市場機能を通じて強制的に圧縮する動きだった。米国の赤字(対米輸出)に依存する成長を考え直していかなければならない。蓄えた外貨準備と、中国の場合は財政収入も生かし、内需中心の成長に転換を図る時機に来ている。

      □  ■  □

共通の利益は「三国協商」時代

国分良成/慶応大法学部長

写真:国分良成さん
こくぶん・りょうせい

 日中韓は「三国協商」の時代に入りつつある。3カ国間には依然として問題も多い。問題があるからこそ、外交を活発に行い、解決する必要がある。それが「外交と協商の時代」だ。

 なぜ、いま「協商」が必要か。国際社会では、グローバリズムとナショナリズムがせめぎ合う。緊張を和らげる緩衝地帯が「地域主義」である。

 地域主義を突き詰めれば、日中韓を中心とした東アジア共同体となるが、これは国民国家が成熟して国境を外す段階だ。しかし、東アジアはこの段階へはまだ遠い。まずは、共通の利益に向かって合意を形成していく「協商」関係によって地域のまとまりを実現する必要がある。

 条件は整っている。侵略および戦争からの決別という合意が共有されるとともに、長く「近代化の優等生」として先行していた日本を中国、韓国が追いあげて水平の関係になってきた。

 さらに次の要素がある。(1)ともに「経済自由化と国内改革」を国の基本に掲げている(2)首脳会談だけでなく、環境、投資、保健など多くの分野での実務者会合が近年積み重ねられている(3)事実上、3カ国ともに米国のプレゼンスを「公共財」として認めている。

 「協商」の必要性は3カ国の外交方針にも表れている。麻生政権が、日米同盟堅持の次に中韓重視を打ち出したのも、その一環と言えよう。

      □  ■  □

五輪は「悲喜こもごも」の成人式

季志業/CICIR副院長

写真:季志業さん
チー・チーイエ

 北京五輪は中華民族発展史上の一里塚となった。「五輪は中国の成人式だった」という学者も少なくない。「5千年の歴史をもつ中国が、成人式だなんて」と言われそうだが、発展途上の大国として、先進国への仲間入りにはなお距離があることを考えると、妥当ではないか、と思う。

 ただ、成人式に「悲喜こもごも」という修飾語をつけないと、実情と合わない。四川大地震やチベット騒乱、聖火リレーへの妨害もあった。中国の成人式は18歳。発育途上で青春期の困惑も続くだろう。

 中国は五輪で自信と民族的な求心力を強め、世界との相互理解も深めた。しかし、社会内部の不均衡や環境破壊、世界的な金融危機、人民元高、生産経費の上昇などの問題に直面し、中央銀行は成長維持とインフレ抑制の板挟み。今後、不動産市況の下落と不良債権問題が浮上し、成長は減速するだろう。

 成人したばかりの中国が、すぐに(国際社会の)大人の社交界入りするのは難しい。社交界から受け入れられるには、まだいろいろと障壁がありそうだ。

      □  ■  □

「北」で突発時には協力不可欠

金一栄/成均館大教授

写真:金一栄さん
キム・イルヨン

 北朝鮮の金正日総書記の動静に絡み、突発事件が起きた場合、日中韓はどんな協力ができるのか。北の歩む道として(1)核放棄と改革開放で体制が転換(2)変化を拒み、内部崩壊(3)武力衝突と中国の介入、というシナリオが考えられるが、どれも可能性は低い。

 金正日氏の健康状態に関しては(1)回復して復帰する(2)代理人を立て院政を敷く(3)死去して子息が世襲するか、軍中心の集団指導、または権力闘争の発生――が想定されるが、核を保持し、部分的な改革開放による現体制維持の確率が最も高い。

 突発事件が発生した時、中国は単独介入をなるべく避けたいだろう。経済建設優先のため介入の余裕はなく、覇権主義との批判も困る。米韓共同介入の選択肢もあるが、国連中心の多国籍軍派遣の可能性が最も高い。中国も費用負担が少なく、協力しやすい。国連の役割について日中韓の合意形成が望まれる。

 突発事件の結果として大量の北朝鮮難民の発生、核の持ち出し、経済復興支援といった課題が浮上する。いずれも国際的な協力が不可欠だ。

このページのトップに戻る