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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

APEC 世界経済混迷の中で錨の役割

 山澤逸平/一橋大学名誉教授(元アジア経済研究所長)

2008年11月17日

写真:山澤逸平 一橋大学名誉教授(元アジア経済研究所長)

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)の一連の会議が今週ペルーで開催される。19日に外相・貿易相の閣僚会議、22〜23日に首脳会議、その中間に首脳たちとビジネス諮問委員会メンバーとの懇談が開かれる。

 世界貿易機関(WTO)の交渉が7月に行き詰まり、今の世界金融危機に直面して、世界経済は混迷の最中にある。世界一の成長軸を擁し、先進国、新興国の主要メンバーを含むAPECが沈静化と回復への錨(いかり)の役割を果たすことができる。

 APECは太平洋を囲む日本、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、中国、台湾、香港、メキシコ、パプアニューギニア、チリ、ロシア、ペルー、ベトナムの21カ国・地域が参加する広域の経済協力組織。1989年の発足以来、アジア太平洋地域の経済協力の中核となってきた。

 ヨーロッパと異なり、緩い協力組織にとどまるが、企業主体の貿易と外国投資の活発化の後を追うような形でビジネス環境を整備してきた。93年米国シアトル会議で、自由化を強く打ち出し、翌年のインドネシア会議で「先進国は2010年まで、他の参加国は2020年までに自由化を達成する」というボゴール宣言を発表した。

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 日本は95年に大阪会議を主催して、ボゴール宣言達成のシナリオである大阪行動指針を採択した。しかし、自発的な自由化方式では先進国の農業や新興国の自動車産業などの困難分野での自由化が進められず、APECによる自由化は期待はずれに終わった。

 さらに97〜98年のアジア金融危機ではアセアン諸国や韓国が直撃されても、APECにはなすところがなかった。その救済策を打ち出したアセアンプラス3のグループが地域の経済協力の中核に取って代わったのである。

 その後APECはその構成メンバーの多様性と能力を生かす地道な現実路線に転換した。関税手続きの標準化やIT化、基準認証制度の拡充、商用ビザの敏速な発給などの貿易投資の円滑化は、先進国メンバーからの技術移転や能力構築支援を受けて、着実に進んだ。貿易投資の拡大には自由化だけでなく、これらのビジネス環境整備が不可欠である。

 今年のペルーAPECでは、「自由貿易協定(FTA)モデル措置」と「貿易投資円滑化計画」が成果となるだろう。FTAモデル措置は、APEC参加国だけで?を超えるFTAがいろいろ異なっていて、それらをまたがって取引する企業活動の妨げにならないように、模範的FTA条項を例示して、標準化しようというものである。貿易投資円滑化計画は、?年の上海APEC以来「貿易取引コストを5年間で5%削減する」プログラムを実施してきたが、その国別成果を表示して、いっそうの改善を励ますものである。これらはWTOできちんと取り入れられていないので、WTOプラス措置と呼ばれ、APEC独自の貢献である。

 日本は2010年に2度目のAPECを開催する。これらの多様な行動成果を総括して、ボゴール目標の中間評価をまとめる役割を負っている。WTO交渉自体は夏以来行き詰まっているが、主要構成国が協議してWTO体制から踏み外さないようにしなければならず、APECはそれを支えなければならない。

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 今年の首脳会議では世界金融危機への対応が話し合われよう。アジア危機の際の逡巡を繰り返してはならない。ワシントンでのG?の首脳会議での合意の方向へ、APEC参加国が足並みをそろえて実施してゆく。新興国やその他途上国には実施能力が足りないが、先に述べたAPECの能力構築や技術協力がそれを補う。

 80年前の大恐慌の後、世界は英連邦、欧州大陸、米州、そして東アジアとブロック経済に分かれて、第2次世界大戦につながっていった。この過ちを繰り返してはならない。国際金融秩序の再構築でも、経済成長の回復でも、相互に受益する国際協力をフルに生かさなければならない。G?やWTOでの合意をすべての国に行き渡らせるために、個々の地域協力グループを機能させる必要がある。

 APECは、多彩な参加国構成ゆえに、他の地域グループにはない利点を持つ。米国は今回の金融危機の大元であるが、日本や大洋州は欧州諸国よりは損失は軽く、中国、ロシア、アセアンの新興国はなお活力を維持している。利害調整は難しいだろうが、APECがそれを果たして、世界全体の回復に貢献することを期待したい。

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(やまざわ・いっぺい 一橋大学名誉教授(元アジア経済研究所長))

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