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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

東アジア共同体 冷静に、本格的な構想を

 天児 慧/早稲田大教授、グローバルCOE「アジア地域統合」拠点代表

2009年01月19日

写真:天児 慧 早稲田大教授、グローバルCOE「アジア地域統合」拠点代表

 米国発の世界金融危機の荒波の中で新しい年を迎えた。正月明けに始まった与野党の国会論戦は非難応酬ばかりで、どうすれば難局打開が可能なのか議論が出てこない。

 内需拡大が必要なことはわかるが、少々の景気刺激策でどれほどの効果が上がるのか。米国のオバマ新政権で大規模な財政支援による米国経済の景気回復に期待は膨らむが、米金融業界の早期回復は望めそうにないし、どこまで日本のプラスに働くかも不透明だ。近年猛烈な勢いで台頭する中国には、脅威感と食品・環境・チベット問題などでの不信感が負の共鳴を起こし、嫌中感、対中警戒感が再び高まっている。

 数年前まで各界で盛んに議論された東アジア共同体論も、潮が引いたように静かになっている。かつて東アジア統合の推進論者であった渡辺利夫拓殖大学長が近著『新脱亜論』で、「東アジア共同体は日本にとってはもとより、東アジア全体にとってまことに危険な道である」と断じた。その理由は「共同体という『共通の家』の中に住まう諸条件をこの地域は大きく欠いており、また共同体形成の背後に中国の地域覇権主義が存在するとみなければならない」からだと力説している。

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 あまりにタイミングよく東シナ海中間線付近の樫(中国名=天外天)での中国側の継続的な海底ガス田開発問題が浮上してきた。「それ見たことか、やはり中国の覇権主義の表れだ」といったロジックがあっという間に説得力を持ってしまうが、安易な感情的な見方が日本の将来にプラスになるのだろうか。どのように問題を考えるべきか。

 第一に内需拡大は重要な戦略課題だが、空洞化した産業構造、格差拡大で低下した購買力、地方の衰退などの問題を抱えた経済活力を再生させるには、本格的な構造転換の戦略と時間が必要である。

 第二に中国は様々な問題を抱えて成長は減速するが、今年も8%を超える成長率が見込まれている。巨大な市場は縮小しないし、輸出依存の日本にとって最大の貿易相手国である。

 第三にオバマ新政権の米国も経済再生のカギとして中国を今以上に重視するだろう。現に米中の投資協定は基本的に合意を見たと聞く。遠い先はともかく短中期的に中国を無視して日本経済の展望は切り開けない。それどころか、実際には様々な分野で中国との関係は深まり、中国ファクターは日本の将来を考える上で欠かせなくなってきた。

 中国では国内の難題を克服するにあたり、日本の社会システムなどへの評価が高まっている。大手メディアで日本評価の評論がたびたび掲載されている。

 そうならばなぜ東シナ海ガス田開発で挑発するのか。もちろん中国は主権問題は譲れない。しかしそれだけではなく矛盾した対日姿勢には、指導部内の権力闘争の影がちらついて見える。単純に対日挑発の動きに反発し、反中国を声高に叫ぶことが得策だろうか。今こそ逆に日中が感情を抑制し連携し、さらには韓国も含めて「共益」創造を具体的に考える時期である。

 そのためには、第一に経済協力のための枠組みづくりに踏み出すことである。日本の外需を回復するためには、もはや日中韓の自由貿易協定(FTA)をためらっている場合ではない。そうでなければ米中FTAに先を越される可能性もある。

 第二は日中双方が相手の重要性を冷静に認識し信頼の回復・醸成に本気になって取り組むことである。日中はいがみ合う必要も理由もどこにもない。たがいに信頼できないのは本当に信頼しようとする努力が不足しているからだ。

 そうした延長線上にアジア共同体を本格的に構想すべきだろう。以下の点がその主な理由である。1.格差、環境問題、感染症などグローバル化が生み出した様々な負の問題の解決はアジア地域協力を通してこそ可能である2.テロリズム、大規模な自然災害、海賊など様々な問題も同じく地域的協力が不可欠である。

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 こうした協力の中で共同体に不可欠な相互信頼やある種のアイデンティティーは生まれ育っていくものである。アジア各国はこれまで、相互の異質性が強調され不信感が強かった。経済協力は所与のものとして進んでいるが、統合に向けての心理的基盤は必ずしも強まってはいなかった。だからこそ、各政府や研究機関、民間団体、市民などが力を合わせ協力して取り組むことの意義は大きいのである。

 ここ数年、表面的にはアジア共同体熱は冷えているが、これについての研究や関心は中国や他のアジア諸国では深化している。日本が率先してアジア統合に向けての高度専門人材育成を推進する重要性はますます高まっている。

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(あまこ・さとし 早稲田大教授、グローバルCOE「アジア地域統合」拠点代表)

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