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朝日新聞アジアネットワーク
AAN発

朝日アジアフェローから

海賊対策 アジア型の民官協力モデルを

 竹田いさみ/独協大教授

2009年03月16日

写真:竹田いさみ 独協大教授

 海上保安官を乗せた海上自衛隊の護衛艦2隻が14日、呉を出港し、ソマリア沖の海賊対策の任務に就いた。昨年の国連安保理決議を受け、米欧や中国、インドなどがすでに艦船を展開している。日本もやっと国際的責務の一端を担うこととなり、商船会社や船員たちも歓迎している。

 アフリカ東部・ソマリア沖やアデン湾は、年間2万隻の船舶が往来する世界貿易の大動脈である。しかしこの海域では近年海賊が横行し、08年には111件の海賊事件が発生、シージャックされた商船などは42隻で、815人が人質になった。日本関係の船舶が銃撃され、日本人が人質になる事件も起きている。人質解放のための身代金は約108億円(08年)に達したともいわれ、世界の海運業界に与える影響は甚大だ。

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 国際的な海上警備で、ソマリア沖が一刻も早く平和な海に戻ることを期待するが、これでことが済むわけではない。航行安全の歴史を振り返れば、受益者である民間が果たす役割が大きく、民間との連携協力は不可欠だ。民官や軍民協力の発想をもとに、海賊対策のネットワークが築かれなければならない。

 それには沿岸警備隊の能力向上などを通じて、日本主導で海賊対策に成功したマラッカ海峡の経験が参考になる。年間に9万隻以上が航行するマラッカ海峡はかつて「海賊の巣」といわれたが、この6年間でその数は激減した。

 海洋の航行安全において民間のプレゼンスは高い。国際商業会議所の国際海事局(IMB)は、マレーシアを拠点24時間体制で、全世界の海賊情報を収集している。

 灯台や航路標識の整備、パトロール船の供与、さらにインドネシア、マレーシア、シンガポールなどの沿岸国の国際連携を築き上げるという難題に挑んできたのは日本財団など民間団体だった。08年4月にマラッカ・シンガポール海峡航行援助施設基金を創設し、国際海運の4団体や、国連の国際海事機関(IMO)を組み入れて、新たな海洋秩序の構築を目指してきた。

 マラッカ海峡の海賊対策に日本の官が本格的にかかわったのは、アロンドラ・レインボー号が99年、海賊にシージャックされた事件。これを契機に海上保安庁、外務省、国際協力機構(JICA)の取り組みが本格化した。

 海賊対策の要諦は、東南アジア各国で「海のおまわりさん」を育成すること。このため海保は、各国の沿岸警備隊に、追跡捜査、立ち入り検査、逮捕術、証拠品の押収など、司法警察権の行使に必要な手続きを丁寧に指導。大型巡視船などを派遣して、連携訓練を地道に進めた結果、東南アジアを中心に海賊対策のネットワークが構築された。

 民間と連携しつつ、政府レベルで海賊情報を収集・分析する目的で06年にシンガポールに設立されたのが、情報共有センター(ISC)だ。外務省の音頭で東アジア諸国が参加して海賊問題を多角的に分析する役割を担っている。JICAも海保と協力して東南アジアに専門家を派遣、国際犯罪の取り締まり研修を日本で実施するなど、縁の下の力持ち役を担ってきた。

 ソマリア海賊は、アデン湾周辺の広い海域を移動している。これを制圧するには、沿岸周辺国のイエメン、オマーン、ケニアなどの支援が欠かせない。日中米欧などが恒久的に海上パトロールを続けることはできないからだ。周辺国による共同パトロールや追跡捜査などを地道に積み重ねて、海賊を囲い込むことが必要である。マラッカ海峡で実証された方法である。

 航路標識や灯台を整備し、情報収集や洋上パトロールの恒常的なネットワークを運営していく資金は、当初は日中米欧など受益国からの基金を元にするが、長期的には通行船舶から、例えば1回1千ドルの通行料を集める方法などが考えられる。

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 だが、ソマリア海賊問題には東南アジアと根本的に異なる点があることを忘れてはならない。ソマリアは91年以来、中央政府がなく、軍や警察など海賊を取り締まる機関がない。国家の破綻状態を解消する以外に、ソマリア海賊は根絶できない。

 海賊問題はソマリア問題を放置してきた国際社会への脅迫状である。ソマリア国民による中央政府の回復や、有力な氏族・部族ごとの分離独立、それともカンボジアや東ティモールのように国連介入による暫定統治など、国際社会はソマリア再建のために汗を流さなければならない。

 民と官の連携、そして軍事力より警察力を重視することで、将来的に日本は海洋安全保障におけるイニシアチブを発揮することができる。人材育成や技術協力で、世界的に比較優位がある日本の持ち味を発揮していきたい。

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(たけだ・いさみ 独協大教授)

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