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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

対中環境事業 知的所有権への固執捨てよ

 堀井伸浩/九州大准教授(中国産業論)

2009年05月21日

写真:堀井伸浩/九州大准教授(中国産業論)

 世界同時不況対策の財政政策の目玉の一つに、グリーンニューディールがあがっている。省エネルギーや太陽光などの再生可能エネルギー、さらに電気自動車なども含む環境技術の普及に向けた政策支援のことだ。「環境技術先進国」の日本はこの商機に競争力を発揮できるはずだが、中国における排煙脱硫装置の展開を見ると、私は日本の対中環境ビジネスの先行きが不安になる。

 排煙脱硫装置は大気を汚染する硫黄酸化物を除去する環境設備で、日本とドイツが世界先進水準の技術を有してきた。中国は04年以降、驚異的なスピードでこれを導入、わずか5年余で全中国の6割以上の火力発電所に導入される見通しである。中国の大気汚染問題は大きく改善されつつあると言ってよい。

 中国の環境問題は日本では、援助や技術協力の対象というイメージが強いが、第11次5カ年計画で省エネと環境について高い改善目標が設定され、急速に事業化されてきた。

 問題は、中国の排煙脱硫装置の多くが欧米企業の技術由来で、日本企業の技術が大きな市場シェアを獲得できていないことだ。日本企業が合弁企業の形で進出しても、既存製品をそのまま販売することに固執したためである。欧米企業は中国に供与した技術を自由に改造する余地を認め、その技術を基にした中国企業は部材やプロセスの変更などで8割の驚異的なコストダウンに成功し、価格競争力で市場シェアを確保した。

 一方、日本企業はいまだに中国企業と協働して技術開発を行う態勢にまで踏み込めていない。かつて排煙脱硫装置を環境援助の重点として中国に協力した日本なのに、ビジネスに移行した段階でその基盤を生かせず価格競争力で敗退したのだ。最大の理由は知的所有権の保護へのこだわりで、その結果5年で1兆円を超える市場規模になった中国の排煙脱硫装置のビジネスチャンスを欧米企業に奪われてしまった。

 欧米企業のビジネスモデルは日本と大きく異なる。製品を売るのではなく、最初から技術供与で技術料を受け取り、その後中国企業が国産化するまでは部材を売り、技術移転のプロセスでも研修プログラムを提供するなど、様々な機会をとらえて利益を回収しようとする。ハードを売るだけでなく、ソフトを売ることで収益を確保する。いずれまねされることを前提として、それまでにいかに技術的優位を活用して利益を回収するか徹底的に追求している。

 中国の巨大な市場は今後環境技術の技術革新のゆりかごとして機能する可能性が高い。また、途上国向けの製品開発は、安い価格でそこそこの品質を確保しなければならず、中国企業の安いモノづくり能力を活用せざるをえないだろう。技術はいつでも現場からブレークスルー(突破口)が生まれる。中国市場の大きさにはそれだけで技術革新を誘発する潜在力があり、中国での失敗は長期的に見て日本の技術優位性を失う結果につながることが懸念される。

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(ほりい・のぶひろ) 九州大准教授(中国産業論)

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