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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

選挙後のインド 安定政権で資源外交を加速

 広瀬崇子/専修大教授(南アジア政治)

2009年06月18日

写真:広瀬崇子/専修大教授(南アジア政治)

 久々にインドに安定政権が誕生した。4月から5月にかけての連邦下院選挙で、国民会議派を中心とする連合政権が再選された。マンモハン・シン政権の経済政策、貧困対策などが評価され、過激なヒンドゥー主義政党や地域政党に票が大きく振れずに安定を示した。大躍進した会議派には、選挙前からの同盟政党に加えて、我も我もと政権参加や閣外支持を表明する政党が続出。2期目のシン政権は、16政党と無所属からなり、それを4政党が閣外支持する。

 おそらくシン首相が最も力を入れる分野は、経済、外交、そしてエネルギー問題だろう。新政権が引き続き経済開発や貧困対策に細心の注意を払わねばならないことは言うまでもないが、同時に経済自由化を推進するアジアの巨象は、外に向けてさらに存在感を示すことになろう。

 共産党の支持に依存しない政権が成立したことで、米国との関係が一層緊密化すると予測できる。250万人を超す在米インド人の政治的・経済的力もそれを後押しするだろう。兵器や原子力分野での取引のみならず、テロ対策でも両国は緊密な連絡を取り合っていくことだろう。

 しかし、インドは米国との同盟を結んで自らを拘束することを是としない。ロシアや中国とも対話を続けている。インドは上海協力機構(SCO)のオブザーバーだが、15日から開催されたSCO首脳会議へのシン首相の出席を強く望むロシアは、オブザーバーもクローズドアの会議に出席できるようにとりはからい、かつブラジル、ロシア、中国との新興4カ国「BRICs」首脳会議と日程を合わせた。

 インドが最も関心を払うエネルギー問題。昨年の米印原子力協定でインドの原子力業界が外に開かれた。フランス、ロシアと相次いで原子力協定を締結し、米国とより一足先に商談が始まった。ウラン供給をめぐりカザフスタンとも協力を約束。天然ガスでは、イランからパキスタンを通ってパイプラインを結ぶ話も進行中だ。資源確保のためにアフリカ外交も積極的に展開している。

 日本は一歩遅れているが、21世紀になって政治・戦略対話を促進、デリー・ムンバイの産業ベルト建設には政府の途上国援助(ODA)が大きな役割を果たしている。今後、インドが強く望む日本からの民間投資が大きく伸びると期待される。

 問題は近隣諸国との関係だが、インドは受け身にならざるをえない。スリランカ内戦は政府軍が勝利したが、政治的解決はこれから。300万人のスリランカのタミル人少数派に同情する6千万人のインドのタミル人の圧力は政府にずっしりとのしかかる。しかし、過去に武力介入で失敗しているインドは慎重である。

 パキスタンに起因するテロ問題はインドの治安を大きく揺さぶる。印パ対話を放棄したくはないが、パキスタンのテロ対策は生ぬるい。歯がゆい思いをしながら、インドにはなすすべがない。一抹の不安をかかえながらの新政権船出である。

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(ひろせ・たかこ) 専修大教授(南アジア政治)

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