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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

大局とらえた論争がほしい

 朴チョル熙/ソウル大大学院准教授(現代日本政治)

2009年08月06日

写真:朴チョル熙/ソウル大大学院准教授(現代日本政治)

 時間切れ解散による事実上の選挙戦の最中で、今回は有権者の選択による政権交代の兆しがある。95年から日本の選挙の現場を観察してきたが、今回のように自民党の議員が生き残りのために必死な選挙は初めて見た。その背景には小選挙区の怖さがある。05年の郵政選挙で小選挙区制の怖さを感じたはずだが、自民党はまさか矛先が自分に向いてくるとは夢にも思わなかった様子である。

 自民党が延命できたのは小泉劇場型政治のお陰であり、旧来の自民党政治をぶっ壊すという彼の言葉を国民が信じたからであろう。しかし、小泉政治の負の遺産はあまりにも大きい。派閥の力を弱くしたものの、それに代わる人材育成システムを作らなかった。特定郵便局など固い支持団体を解体したが、それに代わる新たな集票の方法は世論の人気以外は無かった。構造改革を推進しながら、農家と弱者の心をつかむ政策は取らずに見放した。権力を官邸に集中させたが、それに伴って総理が背負う責任の大きさを分散させる方策も用意しなかった。自民党政治の再生と延命を狙った小泉元首相の希望とは違って本当に自民党体制をつぶしてしまったのは逆説的だ。日本のゴルバチョフと言ってもいいかも。

 自民党が長持ちした背景には危機の時、党内で振り子のように類似政権交代を実現させ、イメージを変えたからであろう。しかし、国民の信も問わずに総理が何回も代わった。それでも人々の暮らしは変わらない。それなら船長より船を変えてみようかと思うのが有権者の感覚であろう。活気も緊張感も無い政党に有権者が飽きるのは当然であろう。

 小選挙区制の下で政権党に不満があると野党に目が向くのは当たり前のことである。しかし、有権者の中で民主党に対する期待が大きいとは限らない。一回自民党を権力の座から降ろしたい、変化を味わいたいという気持ちは強いが、民主党に対する支持は熱狂的支持というより消極的選好であろう。政権交代の受け皿としては期待している感じだ。

 今、問われているのは日本の先行きのことであろう。各党のマニフェストを読むと、有権者の注目を浴びるための目先のばらまきや相手に対する非難が目立つ。予算の使い方や官僚との付き合い方など細かい手続き的議論が盛んだ。しかし、大きい戦略的論争は見当たらない。中国の浮上、北朝鮮の核開発に伴う韓半島の緊張、地域協力体制の強化などアジアや世界の秩序が激しく変動している中、日本はどのような戦略で挑むのか。アジアの中で日本はどのような政治リーダーシップを発揮できるのか。経済の低迷や財政赤字が続く中、どのような形で負担の配分をして財政のバランスを取り戻すのか、いかなる方法で経済の活性化を可能にし、次世代の成長動力を創るのか。そのような巨視的、大局的論争が必要ではないか。

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  63年生まれ。世界平和研究所(会長・中曽根元首相)客員で来日中。

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(パク・チョルヒ) ソウル大大学院准教授(現代日本政治)

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