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朝日アジアフェローから

「併合」100年  日韓の近代化論に危うさ

 趙 景達(チョ・キョンダル)/千葉大学教授(朝鮮史、日朝関係史)

2010年03月25日

写真:趙 景達/千葉大学教授(朝鮮史、日朝関係史)

 100年前の8月、「韓国併合」が行われ、朝鮮は日本の正式な植民地となった。それは日本がかねて願望していた大陸国家化の第一歩であり、日本が「一等国」になった証しであった。「併合」条約公布の29日、東京では花電車が登場し、人々は楽隊の音楽が鳴り響く喧噪の中で、酔いに任せて夜遅くまで慶祝の万歳の声を上げた。

 時代は巡り、韓国は今や国内総生産が世界15位ほどにランクされる国となり、韓流の勢いは止まらない。経済が失速したとはいえ、韓国政府は先進国化に余念がない。

 こうした中、韓国ではニューライトと呼ばれる保守主義的な思潮が勢いを増している。将来の多民族化を予測して民族主義を相対化しつつ、反共主義を主張するとともに、資本主義近代化を絶対化し、国民国家を文明の到達点と考える思潮である。

 民族主義を相対化するところが、一見革新的に見えるのだが、その実は新自由主義を唱え、国家主義的である。李明博政権のブレーンには、ニューライトの学者が多くいる。ニューライトは、植民地下において資本主義近代化が進んだことを認め、「親日派」も免罪しようとする傾向をもっている。「従軍慰安婦」も強制ではなかったという者さえいる。

 資本主義近代化は文明が必ず歩まなければならない過程である以上、日本によって推進されたものであるとはいえ、肯定しうる側面をもっていたということになる。そこでは、差別・抑圧・暴力を属性とする植民地の苛酷性や人々の哀しみを真摯に考えようとする姿勢が希薄である。苛酷な現実や人々の哀しみは、産業近代化の過程では、どこの国にもみられ、植民地に限ったことではないというわけだ。であればこそ、アジアの先頭を切って資本主義近代化を達成した日本は模範的な国だし、今やその日本に追いつきつつある韓国も立派な国だと自画自賛される。

 日本では、政財界人などに、こうした勢力の台頭に好感をもつ人々が現れて当然であろう。しかし、それは早計である。彼らの国家主義的志向は、朝鮮王朝以来の儒教的民本主義の伝統をもつ韓国では、やがては拒絶反応を引き起こさざるを得ないのではないだろうか。

 儒教的民本主義では「民」は「国」より重いとされる。経済優先的な観点から韓国民が李明博政権を選択したのは事実だが、それへの不満も高まっている。新自由主義はすでに、日本以上に韓国に深刻な現実をもたらし、競争と格差を激化させ、とりわけ若者を苦しめている。

 現在日本では韓流がある一方で、嫌韓流や北朝鮮バッシングが深刻である。朝鮮学校を高校無償化措置から排除しようとする動きも露骨である。そこには植民地支配を反省しようとする姿勢をうかがうことができない。政府の植民地支配への反省の弁はやはり虚偽でしかないのではないか。ニューライトのような政治勢力と提携して過去を忘却しようとすることは許されない。

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 (チョ・キョンダル)千葉大教授

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