先月末、私たちの半年以上に及ぶ活動の結果を、ようやく紙面でご報告することとなりました。
坪井さんは「『脅威論』にたじろぐ前に」、私は「『話せばわかる』関係へ」と、一人一人が論文を執筆したことになっていますが、実際には研究会や最終提言に向けてのアイデア作りの中でずいぶんと議論を積み重ねてきましたから、その多くが「共著」といってもよいくらいです。
長岡さんがまとめた「中国人と親しむ心得7カ条」についても例外ではありません。
その7カ条の内容については、ここでは繰り返しませんが、今となってみて「もう少し説明を加えた方がよかったかな」と思うことが1カ所だけあります。
職業柄、教壇で日本人と中国人の姿を対比的に描くことがあります。また、企業内で一緒に働いた際に生じるトラブルなど、生々しい摩擦の様子を紹介することも少なくありません。
今まで「日本人も中国人も似たもの同士」くらいに考えていた学生も、こうした具体的なケースを突きつけられると、その態度を一変させます。「外見は似ていても、社会のルールにはずいぶんと違いがある」ということを理解するようになるのです。
ところが、学生によっては、日中間の違いに過敏になりすぎてしまい、「こんな人たちとは付き合いたくない」と考えてしまう者も出てきてしまいます。
こうなると授業は逆効果。いくら、「そうでない中国人がいる」とか、「こうした違いを乗り越える必要がある」と言っても、学生は異文化を理解し受け入れようとはしなくなってしまいます。
同じようなことが、実際の接触の場面でもよく生じます。
やはり、大学の授業で学生に課したレポートに次のような実体験が記されていました。
1) 東京ディズニーシーのあるレストランでアルバイトをしていたAさんは、中国からの旅行者の「自己主張が強い」ことに嫌気がさしていた。料理がなかなか来ないとすぐに文句を言ってきたり、食事もしないのに水筒をもってきて「水を入れてくれ」と言いに来たり。中国人は自分勝手だと、Aさんは今でも思っている。
2) あるコンビニエンスストアでアルバイトしているBさんは、中国人女性といっしょにアルバイトをしたことがある。この女性は、仕事を分担するとき相談もせずに勝手に仕事を始めたり、仕事が勤務時間終了前に終わった際に、次のアルバイトが来ることも確認せずにさっさと帰ってしまっていた。Bさん以上に、周囲の日本人アルバイトたちは、その中国人女性を許せないと感じていた。
このように、日本人と違う振る舞いや態度を示す中国人に出会った時、うまく対応できればよいのですが、これに失敗してしまうと、「だから中国人は信用できない」とか、「もう中国人とは付き合いたくない」といった過剰防衛心理が働いてしまいがちです。
「中国人と親しむ心得7カ条」の(4)に「日中の違いを楽しもう」とあるのは、こうした過剰防衛心理を働かせることへの戒めだったのですが、今文章を読み返してみると、やはり少し説明不足だったかな、という気もします。
差異にたじろがない――これは、これからの日中関係を考えるうえで、1つのキーワードになるのではないか。私は密かにそう思っています。
私が紙面でご紹介したビジネスマンたちの場合、たじろがないどころか、日中間の差異をうまく利用し、これを企業発展のテコとしています。
ところが、日本国内の現実を見ると、依然として「不気味な中国人」に対する警戒感や「発展する中国」への恐怖心が支配しているように思えます。
授業での多くの学生の反応が、いつか「えっ、中国の人たちってこんなに違う発想をするのですか。それは面白い」となることを――もちろん、今でも一部の学生はこうした反応を示してくれるのですが――期待しながら、来年度の授業プランを今、練っているところです。
「中国人と親しむ心得7カ条」を授業に用いること――は言うまでもありません、ね。