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 一線から
AANの研究チームが、取材・調査の過程で直面したこと、考えたことなどを、随時リポートします
自分の言葉で語るということ――上海ゼミ・成果報告
園田 茂人
中央大学教授、前AAN客員研究員

最後に「一線から」に寄稿して、4ヶ月の月日がたちました。お約束通り、今回は上海ゼミの成果について、ご報告したいと思います。

上海ゼミの最大の特徴は、日本の学生が自分たちで作り上げた質問票を用いて調査を行い、そのデータを分析した上で調査に協力してくれた上海の大学生を前に報告、意見交換をする点にあります。

今回の調査で学生たちが注目したのが、「職業」と「結婚」。日本であれ中国であれ、学生ならば一度は考える人生の大きな選択をテーマに調査を行うことで、日中間での相互理解を深めよう、というわけです。

結果は、実に興味深いものでした。

たとえば、職業選択にあたって、日本の学生は「やりがいがある」や「好きなことができる」といった条件を、上海の学生は「収入が高い」や「自分の才能を活かせる」といった条件を重視していました。また、「外資系企業で働きたい」、「結果のみで評価される職場で働きたい」と回答した割合は上海の学生の方が圧倒的に高いなど、調査項目の多くで両国の事情を反映した違いが見られました。

前回、上海大学の知人が「日本と上海の若者では意識に大差は見られないのではないか」と発言したことを紹介しましたが、調査結果をみる限り、どうも私たちの方に軍配があがったようです。

ともあれ、急ごしらえの資料を抱えて上海へ向かったのが12月18日。上海大学から記入済みの質問票が返送されてから、1ヶ月後のことでした。

翌19日の昼に行われた討論会には、日本から来た中央大学と神田外語大学の学生を含め、60名以上が参加しました。

最初に日本側が報告を行い、これをめぐって議論を行ったのですが、議論の中心となったのが、「上海人学生は個人主義的か」という点です。

質問票の中に、職場内での人間関係を質問する項目があり、日本の学生が「周囲に気を使い」、「給料よりも人間関係を重視する」だろうと回答していたのに対して、上海の学生は「自分の意見が尊重される職場を好み」、「同僚の出世はあまり気にしない」だろうと回答していたのですが、日本の学生は、これを「集団主義の日本人と個人主義の上海人」として説明しました。ところが、上海大学の学生は納得しません。「自分たちは個人主義者ではない」というのです。

質問文の作り方から概念の練り方、サンプリングの方法まで、多くの疑義が提出されました。その都度、日本の学生も反論するものの、なかなか同意が得られません。

最後は、上海大学の学生でも意見が割れ始め、これといった結論を得ることがないまま、討論会は終了しました。

前列中央が園田教授
前列中央が園田教授

報告の際には英語を用いていたものの、実際に議論が始まると日中の学生がそれぞれ使いたい言語で議論・討論し、これを私たち引率教員が通訳することになりました。互いに言いたいことを言い合えるよう、配慮した結果です。

しかし議論が白熱してくると、学生たちはむずかしい表現を使うようになり、互いに自国語で相手を論難し始めました。その結果は、上述の通りです。

面白いもので、夜のセッションでグループ討論を行い、通訳なしでの話し合いをしたのですが、日本語、中国語、英語、それにこれらを混用する4つくらいのグループができ、それぞれが稚拙ながらも自分たちの意見を相手に伝えようと努力するようになりました。そして、時に笑いが起こるなど、雰囲気はまったく違ったものとなりました。

話の内容も、議論の内容をめぐるものからより身近なものへと変わり、最後は一緒に外出する約束まで取り付けていました。日本の学生が、「中国では個人主義という言葉は悪いイメージで捉えられている」ということを理解するようになったのは、言うまでもありません。

自国語だけを使っていると、どうしても自分の意見を通そうとする意識が強く働くようです。ところが、相手に自分の意思を伝えようとする熱意と苦労を共有することで、相手を理解しようとする気持ちが生じるのですから不思議です。

上海から戻ってくる夜、日本から参加した学生たちと総括会を行いましたが、彼らは上海に来て学生と議論ができたことを、心から喜んでいるようでした。

交流することのむずかしさと大切さを理解すること。上海ゼミの最大の成果は、そんなところにあったようです。

2004年1月7日

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