私は今月、神戸市内で開催されたアジア欧州会議(ASEM)の財務相会議を取材した。最終日に各大臣が参加した昼食会があったが、会議で議長を務めた宮沢喜一財務相はインドネシアのプリヤディ・プラプトスハルジョ大臣を同じテーブルに招いた。この出来事は私には大変興味深く思えた。
宮沢氏はその日の午前、同大臣との個別会談もこなしていたが、一緒に食事までしたのは、まだ政治、経済的な混迷から抜け出せていないインドネシアに対する宮沢氏の関心と同情を象徴しているのではないか。
日本からの経済支援が減少したら、ワヒド大統領の政治生命を終わらせるばかりでなく、インドネシアの民主化に深刻な打撃を加えるだろう。
スハルト元大統領の独裁時代に日本からの資金援助の多くは浪費されてしまい、日本国民の失望も強い。こうした中で、宮沢氏の温かい対応ぶりは、分離・独立運動などの問題も抱えるインドネシアが依然として将来、有望な国であるとの確信を反映しているように見える。
巨額な対外債務、不良債権に苦しむインドネシアではあるが、日本にとっては政治、経済的に重要で、魅力的な国なのだ。
インドネシアは石油などの天然資源に恵まれ、日本は最大の貿易国であるし、途上国援助(ODA)などを通じて最大の援助国でもある。
ワヒド大統領は、日本からさらに多くの援助を期待しているようだが、宮沢氏は同大臣に対して、財政立て直しが遅々として進んでいないことを懸念しているとした。
日本では今、ODAを巡って激しい議論がある。経済情勢が良くない以上、ODAの額を減らせという見直し論があれば、日本の外交戦略を支えるためにも、一定の水準を堅持すべきだという意見がある。
スハルト時代にODAがむだ遣いされたため、私の日本人の友人は「私たちはインドネシアの現金自動支払い機ではない」とさえ話す。この気持ちはインドネシアの国民にもよく分かる。我々も借金大国には批判的だ。巨額債務は次世代に重い荷物として引き継がれるばかりだ。
しかし、私は、宮沢氏の対応ぶりが、インドネシアに健全な市民社会が確立されることを望む日本国民の気持ちを代弁していることを希望する。日本の支援は軍事独裁が復活することを阻止する。これからは透明で、信頼できる協力関係の構築が大切だ。