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書評
アジア関連書籍の紹介です
『アジア特電1937〜1985 過激なる極東』
ロベール・ギラン著 矢島翠訳 平凡社刊 2500円

1988年に出版された本だが、いまだに新しさを失っていないし、図書館や古書店では入手可能なので取り上げてみた。

著者のロベール・ギラン(Robert Guillain、1908〜1998年)は、1937年の上海事変を皮切りに、第二次大戦下の日本、朝鮮戦争、第1次、第2次インドシナ戦争、独立前後のインド、建国前後の新中国、高度成長下の日本を広くカバーしたフランス人記者として有名だ。本書は、50年近くに及ぶそのアジア報道を振り返った回想録だが、今日のアジアの背後にあるつい昨日までの歴史を、現場の緊張感の中で再確認するのは、アジアに向き合おうとする人々にとってためになるし、また掛け値なしに面白い。また、現在のアジアの状況・問題を一部見通した部分もあって興味深い。

37年、パリを発ってシベリア横断鉄道で上海に向かう著者は、国境を越えてドイツ、ポーランド、ソ連と東に進むにつれ、文明と西洋から遠ざかっていくという実感を持つ。風景が全般に黒っぽくなり、人々の服装、表情がさえなくなる。人間の尊厳を保つ限界以下の貧困を目の当たりにもする。

ところが、ソ満国境を越えたハルピンの駅頭で「私はあっけにとられた。世界の涯に奇跡のように存在していた文明と西洋」と述懐する。これは、駅員(満鉄職員)のきびきびした仕事ぶり、列車ダイヤを始め規律ある業務の進行、清潔な制服姿などから彼が直感したことだ。文明から遠く混乱を極めているはずのアジアを予想していた著者は、ここで裏切られるのだが、後にアジア各地を見る中で「本来のアジア」の姿も再確認する。

当時の日本について著者にこういわせたのは、開国以来の日本の近代化努力が一定の水準にまで達していたのを、いわば「向こう側」から見て確認したことだろう。一方、中国に対しても生涯温かみのある視線を注ぎ続けてきた著者は、常に日本と比較しながら、歴史的な制約のために近代化の歩みがままならない中国の姿を描く。国共内戦も、人民公社、大躍進政策、文革も、中国が近代化に突き進む足かせとなったという視点が貫かれている。

著者は『第三の大国・日本』(1969年)で、戦争でつまずいた日本の近代化が高度成長期に加速して、すでに大国に地位に達したことを、E・ボーゲルの『ジャパン・アズ・No1』より10年前に指摘した。そのことを本書の中では、中国の社会的実験に目を奪われ、日本の変化に無関心なフランスに対する警告だった、と述べている。今はやりの中国脅威論との比較でいえば、まさに「日本脅威論」が趣旨なのだが、フランスや欧州が本当に日本の経済力を脅威と感じ、さらにそこから自らの行くべき道を学び取ろうと動くのは10年以上後のことになる。

トウ小平復活後、改革開放が始まったばかりの中国には、熱い視線を注いでいる。「資本主義復活」が戦前の無秩序な中国の再現につながるという一抹の不安を残しつつ、この努力がかつて日本が達成したものをはるかに越える規模のものになる可能性を指摘し、いずれは経済発展の大波がすべてを押し流し、政治は2次的なものになると予言しているところは、現在読んでも大変示唆に富んでいる。

原題は ORIENT EXTREME, une vie en Asie。        

(AAN管理担当ディレクター・事務局長 内山 眞)
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