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書評
アジア関連書籍の紹介です
『踊る中国人』
原口純子と中華生活ウォッチャーズ著  講談社文庫 695円

「中華生活ウォッチャーズ」とは、「90年代後半から、偶然北京で暮らすことになった日本人の集まり」だ。自分や配偶者の転勤、留学などがきっかけで、全員が女性。「出発前は『テレビのないような国に行くなんて……』と涙ぐんで同情されたり、『なーに、大国の首都、日本と同じだよ』とパーンと背中を叩かれ激励されたり。『中国の暮らしっていったいどっちなの?』 まったくイメージできないまま、やって来て、そのどちらもアリの、混沌とした世界で暮らすことになったのだ」(「まえがき」から)

1990年代後半は、中国の長い長い歴史の中でもおそらく最も激しく人々の暮らしや考え方が変わった10年間だろう。その猛烈な変化の時代を、中国に行くまで中国の実情なんて知らなかった、関心もなかった日本人、それも女性が切り取った。それがこの本の最大の魅力であり、値打ちだ。

「女性」を強調すると、では男女の書き手としての違いは何か、と聞かれそうだが、まずは生活感覚にあふれた点だろう。男性でも、たとえば自分で食材を買い出して食事を料理する人なら生活感覚にまず問題はない。でも女性って、そちらの方がまず多数派でしょう。そういう目から見て、「買い出しの歴史的変遷」をみると……。「80年代後半に住んでいた日本人から、当時はカレーの材料を揃えるのに少なくとも3日はかかった、と聞いたことがある」。これは90年代初めも同じだった。それが、「棚に並んだ品物をカゴに取って、レジで精算する日本と同じ」スーパーが登場したと思ったら、瞬く間に24時間営業のコンビニまで出現した。そうしたコンビニを深夜訪れた「ウォッチャーズ」の一人はこう記す。

「……夜12時頃に覗いてみた。案の定、客はひとりもいないうえ、従業員がレジにつっぷして寝てる。平均就寝時間は夜10時、といわれる早寝の街北京の、人通りのない場所で、それでも24時間営業。この突っ走り方が今の中国っぽい」

いわゆる中国専門家のみた中国解釈は、専門家ならではの知見に溢れているけれど、地に足のついた生活感覚の点では物足りない面もあるかもしれない。それは等身大の中国理解、ということだ。人と人との交流がいや増していく日中関係で、最も求められているものでもある。その点、路上の風景、ファッション、食べ物、住まい、子供、遊びなどのカテゴリーごとにまとめられたこの本を時に笑いながら(わはははっという爆笑ではなくて、ははは、という笑いだ)通読すれば、等身大の理解がかなうと思う。

ただ、この本のもうひとつの値打ちは、生活感覚だけではなく目線がその先、つまり現代中国人の心理にまでしっかり届いていることだ。

たとえば2001年の上海APECで江沢民国家主席がまとったチャイナジャケットを仕立てて、旧正月にはそれで記念写真を撮るのが一大ブームになったのだそうだ。「ウォッチャーズ」は「80年代、改革開放が始まったばかりのころは、こんな上着は『古くさくダサイ』として見向きもされない存在だった」としたうえで、ブームの背景を、こう推し量る。

「APECでそれを着た江沢民は、おしゃれには見えなかったが、『どうだ!』と堂々胸を張る感じには溢れていた。つまり『唐装』(チャイナジャケットの中国名)は、復活する大国・中国のイメージに、名前もデザインもぴったりのコスチュームなのだ。だから、21世紀の中国人の心をこれほどくすぐったのかもしれない」        

(AAN事務局幹事 浅野千明)
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