台所の生ゴミが堆肥となり田んぼや畑に戻され、安全でおいしい農産物に生まれ変わる。そんな循環型農業への取り組みは、いまでは全国各地に見られるようになった。そのさきがけとなる事例が、1991年に旗揚げした山形県の「長井市レインボープラン」である。著者の菅野芳秀さんは、水田2ヘクタールと少しの畑、自然養鶏で800羽のニワトリを飼う百姓で、レインボープランの実質的な仕掛け人である。その菅野さんが子ども向けの児童図書として書いた。
著者の意図は、「土はいのちのみなもと」という副題にあらわれている。生命にに欠かせない空気と水と土の3要素のうち、大気や水にかかわる汚染や環境保全について、人々の関心は高まってきた。しかし、土についての理解はまだ進んでいない。消費者はもちろん農業生産者ですら、ふかふかの土にすみつく虫や微生物の役割を評価せずに殺虫・殺菌剤で殺してしまう。土の力を軽視して化学肥料に頼る。植物にとって土こそ最も大切な生態系なのに、農薬と化学肥料まみれで固くなってしまう。土は死んでしまっているのだ。
堆肥は土の中の微生物を元気にする。いのちの詰まった土で育てた農産物は、安全であるのはもちろん、健康に育つから栄養素が多くおいしい。
生ゴミを汚くてやっかいものである文字通り「ゴミ」の問題としてとらえるのでは一面的にすぎる。ゴミは資源であり、それを地域で循環させることで地域の農業を元気にする。いわゆる「地産地消」である。それが「まち興し」につながる。実際、長井市でのレインボープランは、ゴミ問題というより、農業再生運動として、また「まち興し」のモデルとして全国の自治体から注目されている。
子ども向けにやさしく書くのはむずかしいことだ。筆者もその苦労をあとがきにしるしているが、苦吟の成果だろうか、筆者が何を考えてどのように取り組んだか、ていねいにわかりやすく書かれてある。児童図書とはいえ中身が濃いから、おとなにも読み応えがある。