アジアの環境問題を考えるときに、京都議定書から一方的に脱退した米国の存在が大きな影を落としていることに気づかないわけにはいかない。その米国は、一方でイラク攻撃にはやりたっている。この2つの現象には、何らかの共通の要素がある、ということは誰もが感じることだろう。
その要素というのは、ブッシュ政権の際立った単独行動主義(ユニラテラリズム)だというだけでは、実は十分な説明ではない。しかし本書を一読すると、その根底に石油業界との親密な結びつきがあることが浮かび上がってくる。つまり、この業界の手足をしばる京都議定書はボイコットし、世界第2位の埋蔵量を持つイラクの原油を手中におさめて米業界に有利な情勢を築くという一貫したねらいだ。
しかし、対イラク戦争を完遂すればもくろみ通りに米国を軸とした世界経済の安定と繁栄が得られるかといえば、全く逆だというのが本書の結論だ。イラク攻撃は原油高を招き、世界同時株安を引き起こす。3月危機とタイミングがぶつかる日本は、株式の評価損が危機を倍加させる。戦争が長引けば、米国はまたしても(財政と国際収支の)双子の赤字に陥り、日本の円高不況の再現、米国を含む世界経済の長期停滞へと進んでいく……。
こうした政策をとるに至ったブッシュ大統領は実は経済が分かっていないという資質の問題、大統領を取り巻くタカ派グループが批判の声を一切無視する「小グループの病気」の兆候を見せている点など、日本ではあまり知られていないが重要な指摘が少なくない。
本書はタイトルこそアジテーション風だが、内容は基本的なデータの積み上げからなっている。それだけにローマ帝国を引き合いに「帝国は頂点を迎えると愚かな指導者が登場する」とし、ローマ帝国末期の貨幣悪鋳と今後起こりうるドルの信認喪失を対比させているところは、一層の不気味さを感じさせる。