昨年の瀋陽総領事館事件や、最近の西安での日本人留学生の寸劇を発端とした「反日デモ」等々、日中関係はどうもモヤモヤした状態が続いている。重要な隣国の首脳間の相互公式訪問が、小泉首相の靖国参拝問題で3年も実現していないのはなんとも異常な事態である。
そんな中で、歴史問題に象徴される過去のわだかまりを克服し、未来のアジア地域を見据えた建設的な隣人関係を築くべしとのメッセージが日中双方から発せられた。
元人民日報記者、馬立誠氏(現在は香港のテレビ局評論員)の『<反日>からの脱却』は、昨年末発表、日本でも紹介され注目された「対日関係の新思考」などの論考を収める。やはり面白いのは日本の「対中謝罪は決着済み」「ODA(途上国援助)を正当に評価すべきだ」「軍国主義復活はあり得ない」と大胆な主張を展開した「新思考」論文だった。
中国国内で投げかけられた「売国奴」「媚日(びにち)派」の激しい非難に馬氏が反論を試みた有力紙「南方週末」でのインタビュー記事も収録されているが、そうした論考に共通する論点は、西安学生デモのスローガンにも一部のぞいた、中国社会に澱(おり)のようにたまる「狭隘(きょうあい)な民族主義」を戒め、戦後日本の平和建設の歩みを真っ当に評価しようとの主張である。
これに対し『中国とどう付き合うか』は日本側からの「対中新思考」の試みといえようか。
めざましい中国の台頭、中国人犯罪の多発などによって、日本国内でも中国・中国人に対して感情的な反発や極端な言辞が飛び交う状況が生まれている。そうした中で30年余の筆者自身の「中国体験」を紹介しながら、できるだけ冷静に、しかし皮膚感覚でわかる中国人論を展開している。さらに変わりにくいとされる中国の政治体制と社会にも変容の兆しがあり、その流れの上に「対日新思考」の登場も位置づけられるというのが、現代中国政治の動向分析を専門とする天児氏の見立てである。
中国は21世紀のはじめの20年を「絶好の戦略的好機」ととらえ、野心的な国家目標をたてる。2008年の北京五輪戦略や東南アジアとのFTA(自由貿易協定)実現の延長線上に、天児氏は将来、中国のイニシアチブによる「東アジア共同体(EAC)」構想が浮かび上がってくると、これまた大胆な予測を展開する。
この時、日本はどうすべきなのか。「日本側の最近の対中アプローチはこれに対応していない」とする天児氏は、旧来のステレオタイプな国家観、中国観にとらわれず、いかに時代の変化を読みとるかが肝要だと述べる。同時に日本を「如何(いか)にして魅力ある国に再生するか」から出発すべきだと力説する。いままさに日本の政治に問われるポイントではなかろうか。