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書評
アジア関連書籍の紹介です

『ある歩兵の日露戦争従軍日記』 茂沢祐作
草思社・2940円

淡々と克明に記す、万骨枯るの世界

評者・野口武彦(文芸評論家)

今年2005年は日露戦争終結百年にあたる。この従軍日記の筆者は、新発田(しばた)歩兵第十六連隊の上等兵で、戦功によって伍長に昇進した人物である。その遺族から歴史の節目にあたって公開された。

軍事評論家兵頭二十八(にそはち)の禁欲的で簡潔な解説が、歩兵第十六連隊−歩兵第十五旅団−第二師団−第一軍という組織の仕組み、さらには隊内での上等兵の役割といった事柄を要領よく説明している。

茂沢上等兵は、鴨緑江(おうりょくこう)渡河作戦、遼陽会戦、沙河会戦、黒溝台(こっこうだい)会戦など歴史に残る戦闘のほぼすべてに加わり、塹壕(ざんごう)で砲撃を浴び、散兵線で前進中に二度も銃創を負っている。

戦史をひもとけば、いずれもみな歩兵戦術の世界史的転回点をなすほど重要な会戦だったとわかる。しかし歩兵には、全局は見えないし、知る必要もない。ただ駒として現場に投入されるのみ。生死を分けるのは「運」だけである。

世は「言文一致」の時代であった。一兵卒にも立派な文章が書けた。

日露戦争は『肉弾』『此一戦(このいっせん)』など日本で最初の「戦争文学」を生み出したが、この従軍日記には戦記物につきまとう名文調が見られず、達意の口語文で兵卒の日常を淡々と記述する。毎日の関心事は食い物である。旧満州の極寒と烈風にさらされた身体の休養である。いつまでも続く無聊(ぶりょう)のはてに、無我夢中で切り抜けるしかない戦闘の時間が襲来する。終われば敵も味方も入りまじって死屍累々(ししるいるい)。

心に残るのは、悲惨をきわめた奉天会戦のさなかに一時休戦を約束し、白旗と赤十字旗を掲げてたがいの死傷者を収容する一場面であろう。双方が握手もかわす。時間が切れると、銃撃戦再開。この時代にはまだ、敵味方が顔を持った人間同士として戦っていたのである。

日本軍の死傷者は八万五千名。悲惨な流血の対価請求でもするように盛んな戦勝気分にひたる一方で、筆者は「勝ってますます兜(かぶと)の緒(お)を締めよ」と自戒する。万骨を枯らした将は果たして戦訓を得たか。この歴史的戦勝から1945年の敗戦まではわずか40年しか経(た)っていない。

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