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書評
アジア関連書籍の紹介です

『イスラーム世界の創造』 羽田正著 東京大学出版会・3150円

実体のない概念にとらわれるなと提言

評者・酒井啓子(アジア経済研究所主任研究員)

拝復。驚きました。すごい本を書かれましたね。ご自身が長年研究対象としてきた「イスラーム世界」という地域設定に、かくもきっぱり訣別(けつべつ)されるなんて。

9・11事件以降、イスラームにまつわる事件の多さから、「イスラーム世界とは何か」との関心が高まりました。私たちと異なる価値観の「イスラーム世界」というものがあって、それが西欧世界に対立しているように見えたからです。

しかしこの本は、統一的な実体を持つ「イスラーム世界」なんてなかった、と言い切ります。その空間概念は、主に19世紀に近代化を果たしたヨーロッパ知識人が自らの優越性を誇示するために、「ヨーロッパ」の対置概念として作り上げたものだからです。そして西欧からの名付けに呼応するように、イスラーム教徒の近代知識人も、既存の国境を越えた「イスラームの統一」を掲げます。

この「イスラーム世界」は、思想家や政治家の理念の中の共同体であって、実際にイスラーム教徒が生活を営むさまざまな国単位の空間(ムスリムの住む複数の世界)とは違っています。しかし、それをごっちゃにしてすべて「イスラーム世界」と呼んでしまうことが、そもそもの混乱のもとなのだ、とこの本は主張します。全く同感です。本来多様な社会を一枚岩視するのは、無理がありますよね。

さらには、ある地域のまとまりを自明としてそこで起きたことを時系列的に語る、これまでの歴史の書き方を見直そうじゃないか、と提言します。どう書けばいいかはこれからの課題だけれど、前に進むしかない、と。

でも皮肉なことに、まだ見ぬ「イスラーム世界」実現のためにムスリムの中から支持者を動員し、衛星放送やインターネット上にバーチャルな共同体を作り上げる、その資源としての「空間」が、21世紀の今、存在します。これを歴史としてどう書きましょうか。思想家の理念の中にしかなかった世界は、アフガニスタンやイラクで実際に起こっている「西欧の侵攻」を象徴として、今やバーチャル空間に実体を持ち、現実の歴史を引っ張っているのではないでしょうか。

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