2009年8月10日発売号
スピーカー:ヒラリー・クリントン 米国務長官
司会:リチャード・ハース 米外交問題評議会会長
■外交と内政を隔てる垣根はない
われわれの外交政策を規定する理念や思想が非常に重要であることを指摘したい。これは私にとっては、たんなる机上の空論ではない。私はこの16年にわたって、ファーストレディ、上院議員、そして現在は国務長官として、対外的にアメリカを代弁する機会と特権に浴してきた。飢えに苦しむ子どもたちに特有な腹部をこの目で見てきたし、人身売買の対象にされた少女たちの情報にも接した。世界には、治る病気なのに治療を受けられずに死んでいく男性もいるし、財産権も選挙権も認められていない女性もいる。学校にもいけず、職もなく、将来に期待を持てずにいる若者もいる。
だが、希望をもち、勤勉さを失わず、創意工夫を怠らなければ、長期的に問題を克服していけることを私は知っている。この36年にわたって、私は子供、女性、家庭を守るための活動を国内で展開し、市民の声に耳を傾けてきた。なんとか雇用を維持し、住宅ローンを支払い、子供たちの大学の学費を捻出し、医療コストの負担に備えようとしている親たちとの対話を試みてきた。これまでに試みてきたこと、目の当たりにしてきたことの全ては、外交をつうじて人々の生活を具体的に改善していく必要があることを私に教えている。
解雇されたデトロイトの自動車工場の労働者の今後は、グローバル経済の行方に左右されるし、途上国の農家や小規模ビジネスの所有者たちが機会を与えられていないと不満を感じるようになれば、政治も不安定化し、経済も停滞から抜け出せなくなる。家族のメンバーがイラク、アフガニスタン、その他で生命を危険にさらしながら活動しているアメリカの家庭もある。そして、世界の子供達すべてに明るい未来を提供することも必要だ。
われわれは、数億人のアメリカ市民、そして、数十億の世界の人々の生活、経験、希望、夢に十分に配慮した行動をとらなければならない。そこには、私と私の同僚たちに啓発を与えてくれる人々が数多くいるし、われわれはこうした人々の立場に配慮して外交を展開することを日々心がけている。
<フォーリン・アフェアーズ・リポート2009年8月10日発売号>
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