辛亥革命は、日本の教科書では、日露戦争後に中国や朝鮮で起きた重大な変化の一つという位置づけだ。東京書籍の「新しい社会 歴史」は、その説明に約1ページを割く。
《中国では、帝国主義列強の圧迫に対抗する動きが強まり、清をたおして民族の独立と近代国家の建設をめざす運動が始まりました。その中心となったのが、三民主義を唱えた孫文です》
こう書き出した後、「アジア最初の共和国」である中華民国が建国されたものの、袁世凱の独裁的な政治を経て、軍閥が割拠するようになったことを概説している。
3・1独立運動と5・4運動は、インドの民族運動とともに「アジアの民族運動」というテーマで、2ページにまとめられている。学習指導要領は第1次世界大戦後の「民族運動の高まり」を理解させることを求めており、それに対応した内容だ。日本が中国に強引に認めさせた21カ条の要求については、その要点を抜き出して別に掲載している。
中国や朝鮮の出来事に関して、この教科書が力を入れているのは日本とのつながりを示す人物の紹介コラムだ。辛亥革命では「孫文と日本」と題し、孫文が日本と深い関係を持っていたが、次第にその対中国政策を批判するようになったことを説明している。
3・1独立運動では、朝鮮の白磁の美しさを評価した民芸運動家の柳宗悦を紹介し、次のような言葉を引く。
《われわれ日本人が、今朝鮮人の立場にいると仮定してみたい。……わがことならぬゆえに、ただそれを暴動といってあなどるのである。……反抗するかれらよりもいっそうおろかなのは、圧迫するわれわれである》
東京書籍の教科書に柳が登場したのは10年前だった。渡辺能理夫・社会編集部長は「歴史を多面的に学習してもらうための工夫の一つ」と話す。
(吉沢龍彦)