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サムギョプサルの個性

2010年2月26日

  • 筆者 八田靖史

写真薄く切ったテペサムギョプサル(とん豚テジ)写真肉の上にレタスを載せて蒸し焼きにする(とん豚テジ)写真ギョウジャニンニクの葉やキムチと味わう(とん豚テジ)写真黄土釜で燻煙しているところ(マッコリ村)写真燻煙した肉を焼いて中まで火を通す(マッコリ村)写真マスタードソースとの相性がいい(マッコリ村)

 牛焼肉のイメージが強い韓国だが、実際には牛肉よりも豚肉のほうが多く食べられている。1人当たりの肉類消費量は年間で牛肉が7.5キロ、豚肉が19.1キロ、鶏肉が9.0キロ(韓国農林水産食品部「品目別1人当年間消費量(畜産物)」2008年)。これを部位別に見るとサムギョプサルと呼ばれるバラ肉の人気が突出して高く、1人当たりの年間消費量は約9キロにも及ぶ。その代表的な食べ方は焼肉であり、部位名をそのまま流用してサムギョプサルと呼ばれる。韓国でもっともポピュラーな焼肉料理だ。

 韓国で広く愛されている料理だけに、日本の韓国料理店でも看板メニューとして掲げる店は多い。韓国ドラマが人気を集めた2004年頃から少しずつ専門店が増え始め、いまでは店舗間の競争も激しくなってきた。各店ともライバル店との差を明確にするため、サムギョプサルの中でも独自性を前面に打ち出す店は少なくない。味付けの種類を豊富に取り揃える店や、分厚く切ってボリューム感をアピールする店、肉を包んで食べる葉野菜を大量に準備する店など、同じサムギョプサルでも味わい方は多彩だ。

 ここ最近、存在感を増しているアレンジのひとつにテペサムギョプサルがある。テペとは韓国語でかんな(鉋)のこと。豚バラ肉をかんなで削ったかのように薄く切って提供するスタイルで、食感の柔らかさをいちばんの持ち味としている。その先駆的な専門店といえるのが2005年に東京、新宿でオープンし、現在までに5店舗を展開する「とん豚テジ」。3ミリの厚さに切ったサムギョプサルを特製の醤油ダレに浸し、レタスを載せて蒸し焼きにするスタイルで評判を集めている。焼けた肉はマスタードソースにつけて食べるのが定番だが、長期熟成させた白菜キムチや、醤油漬けにしたギョウジャニンニクの葉で包んで味わう食べ方も用意されている。

 昨年11月に東京、上野にオープンした「マッコリ村」は、近年人気の高まるマッコリとともに、燻製サムギョプサルを自慢とする店。厨房内に特注の黄土釜を設置しており、厚切りにしたサムギョプサルを約1時間かけて桜のチップで燻煙している。燻香が内部まで染み込むようにと、肉の表面に無数の包丁目を入れる工夫も特徴のひとつ。その見た目がハチノス(牛の第2胃)に似ていることから、韓国ではポルチプ(ハチノス)サムギョプサルとも呼ばれるスタイルだ。燻煙したサムギョプサルは焼くとベーコンにも似た風味になるため、こちらもマスタードソースとの相性がいい。従来のサムギョプサルとはまた違う、鮮烈な香りを楽しめるとして評価を高めている。

 以前までなら、韓国式の豚焼肉というだけで目新しさを売りにできたが、提供店舗が増えたことによって、新たな付加価値が要求されるようになっている。サムギョプサルはそのもっとも顕著な事例だが、他の料理でも似たようなケースは増えているようだ。個々の料理が多様化していく背景には、より高度になった日本人のニーズもあるだろう。韓国への渡航客数は昨年、初めて300万人を突破した。本場の韓国料理が身近になったぶん、日本の韓国料理も急速度で進化を遂げている。

●3月3日はサムギョプサルの日

 サムギョプサルは直訳すると「3層の肉」という意味で、赤身と脂肪が層状になっていることから名付けられた。「サム」の部分が数字の「3」を表すため、3が重なる3月3日は「サムギョプサルデー」に指定されている。2003年に畜産業協同組合らが豚肉の消費拡大を目的に制定したもので、毎年当日になるとイベントや大型スーパーでの安売りセールが行われる。日本ではひな祭りの日であり、耳の日としても知られるが、それとともに韓国料理店でサムギョプサルを目指してみるのはいかがだろうか。

●店舗データ地図

店名:とん豚テジ新宿店

住所:東京都新宿区歌舞伎町2−22−8第八金嶋ビル1階

電話:03−5292−1391

店名:マッコリ村

住所:東京都台東区上野2−9−5長岡ビル3階

電話:03−6803−2244

プロフィール

八田靖史(はった・やすし)

コリアンフードコラムニスト。1976年生まれ。東京学芸大学アジア研究学科卒業。1999年より1年3カ月間韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年に韓国料理をテーマにしたメールマガジン「コリアうめーや!!」を創刊。同名のホームページ(http://www.koparis.com/~hatta/)も開設し、雑誌、新聞などでも執筆活動も開始する。著書に『八田式「イキのいい韓国語あります。」』『3日で終わる文字ドリル 目からウロコのハングル練習帳』『一週間で「読めて!書けて!話せる!」ハングルドリル』(いずれも学研)がある。

日々、食べている韓国料理を日記形式で紹介するブログ「韓食日記」も運営中(http://koriume.blog43.fc2.com/)。 ※執筆者の新著が出ました。「魅力探求!韓国料理」(小学館)。

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